0:04 こんにちは 筑波大学サッカーコーチング論研究室の中山です 今日はサッカーの上達に データがどのように生かされているかについて お話したいと思います サッカーに限らずスポーツの世界では 選手やコーチの経験やカンは そのスポーツの上達を助ける重要な要素です しかし経験やカンだけでは限界があり 客観的なデータをうまく使うことで より効果的にそして効率的に上達を促すことができます 今日はご覧のように五つのサッカーに関する研究を紹介しながら データの収集や分析の 方法について説明します
0:51 まず最初はゲーム分析です サッカー選手は サッカーのゲームでうまくプレーすることが一番大切です 従ってゲームを分析することは サッカーの上達に影響する 最も大切な作業になります では実際の試合で何を分析しているのでしょうか 上手く行っているプレーや 問題となるプレーを明らかにして どうしてそのような状況になっているのか どうすればもっとよくなるのか を知るために分析は行われます それはコーチ等の観察による質的な分析と データを収集し分析する定量的分析によってなされます
1:39 ここでは定量的な分析について見ていきます ゲーム分析の定量的なデータは さまざまな方法で取得できます 現在はGPSや画像処理技術が発達し 選手やボールの移動データを自動で取得できるようになっています 選手にGPS発信器を装着したり スタジアムにビデオカメラを設置し それぞれの機器から位置情報に関するデータや 個々の選手の動作に関するデータも短時間で所得できるようになってきました 皆さんもテレビのスポーツ中継で 全方位からプレーを再現できる
2:24 コンピュータグラフィックスの映像を見たことがあると思います ただしこの方法はまだまだ特殊でお金もかかることから スポーツチームや私たちの研究室で行うゲーム分析で 簡単に使うことはできません 多くの場合ゲーム分析のデータは クラブや研究室で自分たち自身で取っています 私たちの研究室では 私たちが知りたいあるいは分析したい項目を決めて それに関連するデータをゲームの映像を見ながら 基本的には人の手でコンピュータに入力していきます それには多くの時間が必要です また入力者による精度の差があることも課題としてあります
3:16 ではここで私たちの研究室で行った サッカーのゲーム分析の研究を紹介します サッカーの海外強豪国 今回はドイツを対象とし 攻撃の様相に 日本のサッカーとの違いがあるかを検討しました ドイツは積極的にゴールに向かい 相手守備組織を突破するのに対して 日本はパスを回すがゴールに向かわず 相手の守備組織に入っていけない といったことが よく言われます しかしこの評価はあくまでも主観的なものであり 客観的にデータでこのことを検討した研究はありません そこで私たちは日本はドイツと比較して
4:02 攻撃に課題があるとの仮説を立て ゲーム分析を行いました まず分析項目を決めていきます ここではゲーム中の攻撃シーンを三つのパターンに分類しました ディフェンスとミッドフィールドの間を利用した攻撃 ディフェンスとミッドフィールドの間を利用せず サイドのスペースを利用した攻撃 ディフェンスとミッドフィールドの間も サイドのスペースも利用しなかった攻撃の3つです そしてそれぞれの攻撃について ペナルティエリアに侵入できたか できなかったか シュートまでいったかどうか シュートを打った位置とその成否を記録しました
4:52 残念ながらそれらのデータを自動的に所得することができませんでした そこでサッカーのゲーム映像の再生を繰り返しながら状況を分析し データ入力を行いました 写真はその時の様子です これが彼らが見ているパソコンの画面です 映像を再生しながら あらかじめ設定された項目のボタンを押したりしながら データを 入力していきます この研究で使われたデータシートです 2000を超えるデータを取得しました これが日本とドイツの比較の結果です
5:38 攻撃回数 得点 侵入攻撃率 シュート率 シュート成功率には差がありませんでしたが 攻撃成功率については日本はドイツに比べて低いことが明らかになりました 日本もドイツも ディフェンスとミッドフィールドの間を利用した攻撃が 得点につながりやすい攻撃パターンであることは同じでした しかしもう少し細かく結果を見てみると ドイツのほうが日本よりもディフェンスとミッドフィールドの間を使った攻撃が シュートや得点につながっていることがわかりました 主観的な評価から 日本とドイツとでは攻撃要素に違いがあると仮説を立てました
6:26 定量的な分析によって 日本もドイツと同じような攻撃を目指しており ディフェンスとミッドフィールドの間を使った攻撃の重要性は同じなのですが その効率に違いがあり ドイツのほうがより多くのチャンスを作っていることが明らかになりました この結果から日本の指導では パスのタイミングなどについてしっかりと指導をしていくことが必要である と考えることができました 次にゲーム分析からサッカーのゴールキーパーのプレーに焦点を当て ゴールキーパーの守備能力を評価した研究を紹介します ゴールキーパーの守備能力を評価する指標として 平均失点数やシュートに対するセーブ成功率などがあります
7:16 しかしこれにはそれぞれのシュートをストップする難易度が考慮されていません つまり簡単にシュートをストップするのと 難しいシュートをストップすることが 同じ 価値になっています そこでゲーム中のすべてのシュートの成功と失敗 シュートに関連する要因を記録して そのデータからそれぞれのシュートの難易度 ここではシュートストップの失敗確率を ロジスティック回帰分析と呼ばれる統計手法を使って明らかにしました ゲームの中でシュートの場面を取り出し シュートの成功 失敗を記録し さらにそれぞれのシュートについて
8:02 シュート到達時間やシュート者への守備の有無など シュートに関係する12個の項目について 映像を分析し記録しました 分析の方法は先ほどのゲーム分析と同じです 映像を繰り返し見ながら それぞれの項目について記録していきます 記録したそれぞれの項目のデータを統計的に処理し シュートストップの失敗確率を予測する回帰式を構築しました この式に従ってそれぞれのシュートの失敗確率を出すことができます 例えば失敗確率0%のシュートは ロングシュートで、シュートスピードが遅く
8:47 ゴールキーパーの正面に飛んできたシュートです 同じように失敗確率25%は ペナルティエリアあたりからのシュートで 味方の ディフェンダーがそこにしっかりとプレッシャーをかけており シュートコースが限定され予測しやすく かつシュートコースがゴールキーパーの正面から少しずれたシュートです 失敗確率50%は、ペナルティエリアあたりからのシュートで 味方ディフェンダーによる プレッシャーがなく シュートコースを予測することが難しい状況で シュートコースがゴールキーパーの正面から少しずれたシュートです ペナルティキックは72%の失敗確率です そしてサイドから飛んでくるクロスボールに対して ゴールに近いところで ノーマークつまりフリーで打たれたシュートは失敗確率98%になり
9:37 ゴールキーパーがセーブする ことが極めて難しいシュートの例になります 4人のゴールキーパーの守備能力を評価してみます A B C Dのそれぞれの選手は 20点もしくは10点の失点を実際にしています しかし それぞれが打たれたシュートについて この研究で得られた回帰式を使って失敗確率を出し それを元に予測失点数を計算しました これを見ると A選手は予測失点10点に対して実際の失点が20点でした 簡単なシュートに対して得点を許してしまっている可能性があります C選手はA選手と同じ20点の失点を実際はしていますが
10:24 打たれたシュートは 難しいものが多く 予測失点は30点でした つまりC選手は30点奪われる確率のシュートに対して 実際は20点に抑えることができたということで 一番シュートストップ能力が高いと考えることができます 次にGPSデータを使ってサッカー選手のフィジカル 体力を測定している例を紹介します 現在のスポーツの世界ではGPSデータを使って 選手の体力 フィジカルを測定し トレーニング計画を立てることは普通になってきています GPSは発信器を選手に装着できると自動的に多くのデータを取得できるので
11:16 大変便利です 筑波大学蹴球部 サッカー部でもGPSデータを使っていますので その例を紹介します サッカー部では試合や日々のトレーニングでGPSデータを使って 選手の体力的な負荷をモニタリングしています 体力的な負荷はその活動の量と強度によって測ることができます この活動の糧と強度を調整しながら 選手のケガのリスクを抑えパフォーマンスの向上を目指しています 選手は背中に発信器を入れ それを着用したまま試合やゲームを行います それをグランド脇にある受信機で信号を収集するシステムです
12:04 GPSから101種類のデータが所得可能です その中から量に関わるデータとして 心拍数や総走行距離などを測定しています 同じように強度に関わるデータとして 最高心拍数の85%以上で運動した時間や 総走行距離における高強度走の 距離の割合などを測定しています 自分たちが必要とするデータを必要に応じて選択していきます これはある選手の試合中の移動スピードと心拍数のデータです 青い線が移動スピードで赤い線が心拍数です
12:52 これは1人の選手が試合中にどこで動いていたかを表す図です 青から赤への変化に従ってその回数が多くなっています このようなデータが GPS 発信器を付けたすべての選手から得ることができます 試合中のチーム全員 つまり11人の移動を追跡したものです 11人の動きを同時に再生することができます このグラフィックを使って チームの戦術的な動きについて分析することができます これはチームのメンバーのそれぞれのデータを比較したものです
13:40 上は最高スピード 下はスプリントの回数をプロットしています 個人差があることがわかります そしてこれは 日々のトレーニングで総走行距離や高強度走行距離など それぞれの項目について記録したものです その日のトレーニングの負荷を これによってモニターすることができます 以上のようなデータを下に 試合での活動の量と強度を基準に 1週間のトレーニング計画を作成し 日々のトレーニングが その目標値に達しているかを常にモニターしながら 選手のコンディショニング管理を行っています
14:28 次にサッカー選手がゲームの状況を観察し 判断するといった視覚的な能力が サッカー選手のレベルによって違うことを検討した研究を紹介します うまいと言われるサッカー選手の特徴を調べました まずは脳波 筋電図 反応時間をデータとして使った研究です 熟練したサッカー選手は状況判断が速いのでしょうか サッカーの競技レベルの違いによって 脳内における情報処理過程は異なる との仮説を立て 実験を行いました スポーツ選手の 脳内情報処理過程を評価する手段として
15:18 脳波から思考や認知に関連する 事象関連電位 筋肉の動きを知るための筋電図 また映像の提示から判断し決断するまでの時間を反応時間として データを取得し 分析しました 実験はサッカーのパス場面を想定した選択反応課題です 黒い画面を見てください 青の選手が味方で 白が相手の守備選手です 提示される写真はいくつかのパターンがあり それらがランダム に提示されます 提示された画面を見て その状況で右か左 あるいは2人の選手の間にパスするかを判断することが
16:03 実験参加者の課題です 状況を見て 左あるいは右の味方にパスをした方が良いと判断したら 足元にあるスイッチを踏みます 2人の相手の間を パスすると判断した場合は何もしません このような実験を120回繰り返しました 脳波、筋電図、反応時間のデータです 横軸は時間です 一番上が脳波の図で V字の波形がいくつか見えます 視覚情報処理の始まりや 脳で刺激を評価した時点を波形から推測します 筋電図からは筋が動き始めた時点を確認することができます
16:52 一番下の図は足元のスイッチを押した時点を捉えています 脳が反応するタイミング 筋が動き出すタイミング そして実際にスイッチが押されたタイミングが 少しずつずれていることがわかります これは今回の話とは直接関係がありませんが 脳が人の動きをどのように制御しているかを調べると いろいろと 面白いことがありますので 是非そのような勉強もしてみてください 今回の実験では競技レベルが異なる大学サッカー選手を対象にしました 脳波から競技力が高い選手の方が低い選手よりも 脳内での視覚情報処理や刺激評価が
17:37 速くできることがわかりました そして同じように筋電図や反応時間のデータから 競技力が高い選手のほうが低い選手よりも 運動反応の出力が速いことがわかりました サッカー選手の競技力は技術の力の差もありますが 状況判断するスピードにも違いが あることが明らかになり 練習で認知的なトレーニングをすることの必要性が示唆されました 最後に 眼球運動の測定からサッカー選手の状況判断能力について見てみます 上級者と中級者のサッカー選手を対象に 資格に関するデータを分析しました
18:22 写真のような眼球運動計測装置を装着しました 眼球運動の分析は人が何を見ているのかを明らかにする手法の一つです 視線の向けられていた時間や場所から 人が何に注目していたかを客観的に把握することができます これは実験の風景です 実験室の壁にスクリーンをセットして そこにサッカーのゲーム状況の映像を映します スクリーンに映る映像を見ながら 左側にあるボール発射器から自分に出されるパスを受け その状況にふさわしいと判断したところにパスをするといった課題を 実験参加者に行ってもらいました 視点がどこに向けられていたかを予測するために
19:10 あらかじめ対象となる箇所をカテゴライズしておきます これは別の実験で行った剣道の例です 面や胴、竹刀、小手、下半身をカテゴライズしています これと同じように今回のサッカー実験においても スペースや対象となる選手をカテゴライズして どこに視点が向けられているのかを分析しました ビデオの映像に眼球運動のデータをフレームごとに合わせていったデータです これは剣道のデータですが 上は師範と言われる上級者 下は非熟練者です 見ている場所や視点の移動の仕方に 大きな違いがあることがわかると思います うまい人ほど相手の顔しか見ていません
19:58 同じようにサッカー選手の上級者と中級者との比較です 先ほどの剣道ほどの明らかな違いはありませんが 競技レベルによって 注意を向けられている場所や視点の動かし方に違いがありそうです 上級者の選手のほうがより広いエリアに注意を向け マークされていない味方や次にパスをしようしている味方 相手選手といった鍵となる選手に多くの注意を向けていました 一方中級レベルの選手は近くの選手やマークされている味方 空いたスペースに多くの注意が向けられていました 眼球運動のデータから 私たちはサッカー選手が正確にパスするという目的のために
20:47 ボールやパスを出す味方にどのように視線を向けているのか という実態を知ることができました そこから巧みな技 上手くプレーするためのコツを知り 具体的なコーチングに生かすことができるのです まとめです テクノロジーの発達によって スポーツ活動中の動きや生理的反応など より簡単により 多角的に収集できるようになってきています しかしそこから どのようなデータを収集しどのように分析すると スポーツの現場で生かすことができるかは スポーツの 現場で常に活動している人たちの アイディアや見識が必要になってきます 日々のスポーツ活動で蓄積されていく経験や勘を大切にしながら
21:37 定量的なデータをうまく活用していくための知識を持つことが大切です スポーツでうまくなりたいと思ったら まずは体を動かすことが第一ですが 時には映像を使ったり記録を測定したりしてデータを取り 客観的に自分のプレーを振り返ってみることで きっと上達のヒントを見つけることができると思います 以上になります