0:00 それでは、お話の続き、展開を見ていきましょう こういう真面目で非常に潔白、清廉潔白というね そういう人物である丈部左門さんがですね お友達になる人と出会うことになるんですね その後、「ある日、左門が知り合いの家に行くと 壁を隔てた部屋で病気に苦しんでいる旅人がいる」と その感染の危険をも顧みず 懸命に看病した左門のおかげで この旅人が一命を取り留めた訳ですね その旅人はこう言います 「死すとも御心に報ひたてまつらん」と非常に感謝した 「死すとも」死んだとしてもですね
0:46 「御心」あなたのお気持ち このご恩を返しますということですよね という風に感謝したと 一命を取り留めているんですから ありがとうでいいんだと思うんですけれども ここで死んだとしてもって言うところが なんだかちょっと 何かを思わせるようなところがありますけれども 死んだとしてもご恩は返しますという風に それぐらいこの旅人はもう感謝、感動したということですよね この旅人、何者かということなんですけれども その旅人自身が語るところによると 旅人の名は、赤穴宗右衛門という人物なんですね
1:31 この人は、出雲国富田の城主 富田の城主 塩冶掃部介に仕える武士なんですね 武士ですから、武士道ですよね 義理というものですね ご恩とか義理とかという道で生きている人なんですよね 武士だというと、密使として選ばれて 近江の佐々木氏綱 出雲国の守護職ですけれども 出雲のね、仕えている人の守護職の館に滞在中に 近江に密使として赤穴が滞在している時に 出雲の城主 塩冶掃部介ですよね この人が尼子経久に城を奪われて
2:18 討ち死にしてしまったというえらいことが起きてしまう訳ですね そこで、近江の佐々木さんのところへ行っていた宗右衛門は 佐々木氏綱ですね この人に尼子を追討しようという風に進言した だけれども、臆病な氏綱はそれを果たさず 宗右衛門はかえって身柄を拘束されてしまった そこでなんとかこの人は身体一つで脱出して このね、城主の、仕えていた城主の この出雲に帰る今途中だと その途中で病気になってしまったんだという風に言うと そういう風に身の上を語ったですね この赤穴宗右衛門ですね
3:04 その人とこの丈部左門が色々語り合う訳です 左門と惣右衛門は昼夜を問わず語り合った 二人は何一つとして心が合わないことがなく もう意気投合しちゃった訳ですね 感心したり、喜んだりすると 非常にそういう感動するところ、喜ぶところとかね そういうポイントが同じだったんですよね 非常に心が通い合う友だ 無二の友ですよ、こういうの 無二の親友とか言いますよね こういう人と出会うことができた訳です そこで、この二人はもう意気投合しちゃったので 兄弟の誓いというものを結んだと
3:52 二人は義兄弟ということになる訳ですね ちょっとここでは引用では略していますが 赤穴宗右衛門ですね この人がお兄さん、年上なんですね 丈部左門が弟 ということで、二人は義兄弟という結びですね それを持ったということになるんですね この二人が意気投合して仲良くしていたんですけれども 赤穴宗右衛門は出雲に帰る途中でしたよね そもそもは、ですからやっぱり出雲がですね この城主が亡くなった後、どうなっているのかということが 非常に、やっぱり武士ですからね
4:38 武士である赤穴宗右衛門は気になるということで いっぺんちょっと出雲に様子を見に行きたい ということになる訳ですね さあ、「初夏のある日 宗右衛門は九月九日の重陽の日に必ず戻ると約束して 出雲の国の様子を見に行った」と この九月九日の重陽の日 これが重陽の日には、菊の花を飾るんですね だから九月九日には絶対戻ってくるから ちょっといっぺん、出雲の国の様子見に行ってきますと言って 宗右衛門が出雲に行く訳ですね 初夏から九月九日まで待っている訳です、丈部左門はね
5:24 ようやくその九月九日が来たと 約束の九月九日、左門は今日帰ってくるなと 赤穴宗右衛門が帰って来るなということで 重陽の節句ですから、菊の花を飾って 酒肴の用意をして宗右衛門を待ったと ところがですね お昼が過ぎたと、夕方になってもやって来ない訳ですね お母さんがですね、もう明日にしたらと 明日にして家に入りなさいよという母 いやいやそんなやつじゃないと 赤穴宗右衛門はですね 兄弟の誓いを結んだあの赤穴宗右衛門が 約束を破るはずはないと言ってですね 言いなだめてですね お母さんを先に寝かせて
6:09 もし万が一にでもと戸外へ出てみると もしかしたら来るかもしれない 時間ね、間に合わへんかったと言ってね 夜遅くなっても来るだろうと思って外に出てみたと そうすると「天の河の星影も薄れがちで 月は自分一人を照らして淋しく どこかの番犬の吼える声が澄み渡って聞こえ」ると ここら辺の描写が何か凄いよね 星の光も薄れがち 月がもう自分一人を照らしてシーンとしている訳ですね 月の光と自分一人、月が自分にバーっと当たっているような感じ そしてどこかの番犬がウォーンとか皆さん想像してくださいね
6:57 声、夜の犬の遠吠えの声というのはなんか響き渡りますよね それが澄み渡って聞こえ 海岸の波の音が足元まで聞こえてくるかのように 静まり返っている ザザザザ、ザザザザと 夜の波の音ですよね そういうものも聞こえてくるかぐらいに 静まり、シーンとしている夜だと 何かが起こりそうと思わせる訳ですね そうすると、月の光も山の際に陰くなれば 月の光が山の端に入ってですね ちょっと暗くなった ああ、もう来ないのかなと こんな真っ暗になってきたから、もう駄目かなと思って もう今はもう駄目かなと思って、戸を閉めて中に入ろうとしたと
7:48 そうすると、「ただ看」、パッと見るということですね 「ただ看」というのは パッと、パッと目に入ったものですね これよく白話小説で出てくる言葉なんですね ちょっとパッと視界に入るということありますよね 意識してないけど、不意にパッと目に入ってきたというのね そういう感じを表しているんですね ただ見る、パッと もう今までのところはシーンとして この丈部左門ですね、左門だけが こうスポットが当たっていた 夜の静寂ということが描かれていたんです
8:34 そこで、パッと焦点がですね この丈部左門の この目というね、視界というものを通して 読者の目の中にばっと入ってくるんですね 何が見えたかというと 「おぼろなる黒影の中に人ありて」と 「風の随来る」と 黒い人影がですね、風に従ってやって来る訳ですね 風にまかせてね、風のまにまに、それをあやしいと 「何だあの黒い人影は」と思って見れば、 それは赤穴宗右衛門であったということなんですね 「ああ、帰ってきたのか」ということで喜ぶ訳です
9:20 「帰ってきた宗右衛門に、左門は踊りあがるここち」 すごい嬉しい訳ですね 友が帰って来たということで、踊りあがるここちになり さあさあと家に招き入れようとするんだけれども 何かちょっと様子がおかしいんですね 宗右衛門は、うんうんと頷くばかりで一言も発しない お酒を勧めても、袖で顔を覆って 何かこうお酒の臭いを避けるようなというね、仕草をすると どうしたのかな 何にも喋れないし、シーンとしていたら しばらくして長いため息をついて ようやくこの宗右衛門が語り出した こんなこと言うんですね 「吾は陽世の人にあらず、きたなき霊のかりに形を見えつるなり」
10:09 もうびっくりですよね 私はあと陽世って現世ってことですね この世の人ではありませんという訳です 私はこの世の人ではありませんと 汚い魂 死ぬことって、これは穢れだというような考え方もある訳ですね そういうことを踏まえているんでしょうね 死んで汚い魂になってしまった その魂が今かりそめに姿をあらわしているんですよと 幽霊なんですということですね 私はこの世の人ではありませんと
10:55 亡くなってしまったこの魂が今かりそめに姿を 宗右衛門の体の形を取っているだけなんです もうびっくり仰天ですよね ええ!どうしてそんな不思議なことをおっしゃるんですか 私には全く、夢にも信じられません という風に言う訳ですね まあ、何があったの宗右衛門さんということですね ということはその後見ていきましょう 一旦ここで切りましょう