0:00 では、『古事記』の物語を読んでいきましょう 今日はですね、最初のところ、天地創成 そしてイザナキとイザナミの最初のところを 皆で一緒に読んでいきたいと思います まず、『古事記』はどのように始まるかというと 天地創成の物語から始まるんですね 非常にダイナミックなところから始まっていきます こういう風に始まるんですね 天地始めて発くる時に 天地というのは初めてできた時に 高天原に成りませる神の名は、天之御中主神 次に高御産巣日神 次に神産巣日神 此の三柱の神は、皆独神と成り坐して、身を隠したまふ、という風に
0:48 この後いっぱい神様が出てくるんですけれども 最初ね、一番最初に誕生した神様というものは 天之御中主神であったということですね これは高天原というこれが天上界になるんですけれども 天上界に神様達が誕生するんですね そして最初にできたのは御中 真ん中という風に書いていますよね 天の中心という意味でしょう 天の中心であるという神様が生まれました 次に高御産巣日神というのは、これは産むという字が入っていますね だから簡単にいうと、これは創造神ですね
1:38 天上界の創造神が生まれました その後、神産巣日神ですね これは、地上界の方の創造神という風に考えられています まず、神様達を生み出す創造神というものができたんだと この三柱の神ですねこの三神ですね 三つの神というのは皆独神であるよと 単独神ということですね 単独神であって身を隠したまふということですから 目に見えないという事です 単独の神様であって、目に見えないと
2:25 そういうこう点点点ということですね そういう神様達がまずできたんだよと 天上界にできたんですよということから始まるんですね その次に、国稚く、浮ける脂の如くしてくらげなすただよへる時に まだ国が幼くてぷよぷよとした油のように クラゲのように漂っていた時に 葦牙の如く萌え騰る物に因りて成りませる神の名は 葦牙とは難しいけれども、葦というのはこれは植物です 葦というのはイネ科の植物なので 稲みたいなものを想像してもらっていいと思いますけれども
3:13 植物の牙というのは、これは芽ということです 植物の芽のように、植物が春になったら芽が出ますよね そのように萌え出づったものですね 萌える、植物が萌え出るようにできた神様 それが宇摩志阿斯訶備比古遅神であるよという風に書いてあります 宇摩志阿斯訶備比古遅神 阿斯、訶備で葦の芽 植物の芽のような神様なんですよという風に書いている訳です 次に天之常立神 常というのは、これは常にずっとあるよということです だから永久ですね
3:59 永久を守る神様が出てきたんですよということですね 葦牙というのは、植物の芽のように命を吹き込む神様と考えています 命を吹き込む神様ができて そして天の永久を守る神様ができたんですよと この二柱の神、この二つの神様も これも単独神で姿が見えないということですね 上の件、五柱の神は別天つ神と この五つの神様というのは 別、特別という意味です 特別な神様ですよと、まずその特別な神様というものが生まれた
4:48 天上界に生まれたんですよということですね その後、 神様がまた次々と出てきます これは、無性の単独神で目に見える身体を持たない 国之常立神、豊雲野神、という神様ができます その後、また沢山出て来るのですけれども 今度は男神と女神という風に、今までは無性でしたよね 性がないのに対して 今度は性を持つ男と女という性を持つ神様が出てきます 最初の単独神ですね、これはそれぞれで一代 今度男女の神はこれは合わせて一代というようにセットなんですね
5:34 男女のセットのペアの神様が生まれてきましたよと 宇比地迩神、須比智迩神 それぞれこういう漢字を当てはめて こういう意味を持つ神様なんですけれども そういう神様が 次々と生まれてきたと 最後にこの、伊耶那岐神と、伊耶那美神という 今日の主役であるイザナキとイザナミという イザナキの方が 男で、ミの方が女なんですね こういう神様が生まれました このイザナキの神とイザナミの神というのは、どういう神様かというと これイザと書いていますね イザというのは誘う(いざなう)
6:20 誘うということですね 相手を誘うという、そういう意味なんですね いざ行こうとか言いますよね、今でも そういう、いざというのはさあ行こうよという風に誘っているという そういう語源というか、意味を持つ神様なんですね これは何を誘っているかというと さあさあということで、お互いに求愛しあう そして国を生んでいく訳です イザナキの神とイザナミの神がそれぞれ求愛し合って 日本につながる国が生まれていくんですね 国生みということをするということになっていくんですね この二人の神が生まれたんですよということになります
7:06 さあ、こういう風に『古事記』の物語にはたくさんの神様が出てきます これもやはり日本の神様の特徴と言ったら ちょっとおかしい言い方かもしれませんけれども 日本らしい特徴かもしれませんね こういう風にたくさん神様がいる国もあれば 一つの神様を崇める国もありますよね 唯一絶対神を崇める国もありますね それに対して日本というものはたくさんの神様がいると 全てのものに神がいる訳ですね 山の神、海の神ですね
7:53 そういう風に全てのものに神様がいます そういうのはやはり、唯一絶対神を崇拝する国とは ちょっと性格が違うのかもしれませんね そしてその色々なものというのは 山とか海とかそういう自然だけではなくて 私達の体にも神様はそれぞれ、手には手の神様 髪の毛には、髪の毛の神様という風に神様が宿っていますし 私達が発する言葉にも神様は宿ってくる訳ですね それが言霊ということになってくる訳ですね だからそういうたくさんの影が語られてくるというのは一つ 日本の国の信仰のあり方というものを表している そして自然観であったり
8:41 言葉に対してどういう風に私達の国が思っているのかということですね そういうものを示してもいる訳ですね さあ、このイザナキとイザナミですね じゃあ、どういう風に国生みをしていったのだろうか というところを見ていきましょう さあ、国というものは何から生まれたのかというと 海水から生まれてくるんですね ここからちょっと現代語訳を交えながらやって行きますね さて、 ここで天の神々達は イザナキ・イザナミに、このプヨプヨと漂っている国ですね これを固めて国土としなさいというように命令をして アイテムですよね 天の沼矛をという矛ですね それを授けたと 授けられたイザナキとイザナミの二神は
9:27 天と地の間に架かる天の浮橋に立って この天の沼矛をですね これを降ろして掻き回した 塩水ですね、それを「こおろこおろ」とかき鳴らしたんだと これは『古事記』の原文にこういう音で表記されている、そのままです 擬音語ですよね こおろこおろという風にかき鳴らしたんだよと 矛を引き上げると、その矛の先から滴った塩が おのずから固まった訳ですね 凝り固まって島となった これがオノゴロ島であると おのずから凝り固まったで、「オノゴロ」ですね オノゴロ島という島ができたんだと
10:14 イザナキとイザナミはその島に降り立って柱を立てると 天の柱を立てて大きな神殿を建てました そこで2人が国生みをしていく訳ですね 求婚求愛をしていって国を生んでいくと で日本が生まれていくという風に物語が展開していく訳です ですから私達日本という国は神様が生んだんだよと その日本というのは、もともとはそのオノゴロ島という そこを作って、そこでイザナキとイザナミが求婚して そして日本は生まれて島々が生まれていく訳ですね それで、そのもととなったオノゴロ島というのは塩水ですよね 塩水から生まれているんだよという
11:01 海から生命が誕生したというのは 生物なんかの授業でも学んだと思いますけれども そういうことがもう『古事記』の時代に 何て言うんだろう 、研究とかする訳でもなくですね 日本人達は知っていたということですよね 海から生命が誕生したんだということを ここに書かれている訳ですよね もう一つ、その塩というものが 昔の時代には、例えばお金の代わりになったりという風に 非常に貴重なものであったという、そういう価値観も この何て言うんだろう 塩水から島が生まれたんだよというところには そういう意味も込められているかもしれませんね
11:50 さあ、では、どういう風に求愛しあったのか いざいざと誘ったのかというところを読んでみましょう イザナキはイザナミに尋ねた 「汝は身はいかにか成れる」 あなたの体はどういう風になってんのというように尋ねるんですね そうするとイザナミ、女の方は答えた 「吾が身は成り成りて、成り合はぬ処一処在り」 私の身は成っているんだけれども まだできていないところが一ヶ所ありますと イザナキは言ったと、男の方ですね 「我が身は成り成りて、成り余れる処一処在り」 私の体はできているんだけれども余っているとこが一ヶ所あるんだよと 「此の吾が身の成り余れる処を以ち」
12:37 「汝が身の成り合はぬ処に刺し塞ぎて」 「国土を生み成さむと以為ふ。生むこといかに」 自分の身体の余っているところを、足らないところに合わせようと それで 国を生もうと思うんだけど、どう? という風に聞いてあげている訳ですね そうするとイザナミ、女の方が それはいいわねという風に言った、ということですね 非常にすっきりとなりますね いやらしさというものは全然なくて あっけらかんという風に書いています ここでちょっとポイントとしたいのは 身体というものが「成る」という風にできていると 成って出来ているんですよという風に書いているんですね
13:25 これは非常に 自分達が、人間、日本人というものが どういう風にできているのかということを考える時に 先程の神様の話とも絡めると 非常に面白いところだと思います 唯一絶対神が造ったものじゃないんですよね、成ったものなんですね 振り返ってみると 今までのところを見てみると 最初のその天上界に、神々が誕生するところも 初めて発くる時に、高天原に成りませる神という風に 神様も成っているんですよね これはどういう風に成っているかというと 葦牙の萌え騰るように成った訳ですよね 植物の芽が萌えいづるように
14:13 植物が育つように、神様もできるし イザナキとイザナミの体もできているんですよと そういう風に書いているのが『古事記』なんですね だから、絶対神が造ったというものではなくて 土壌から、芽が萌えいづるように 自然と成長してきたという感じですね そういうイメージで身体というものもできているんですよ という風に書いているというのが
14:59 日本の考え方、日本人の、昔の日本人の考え方だったんですね そういう風に考えると非常に こういう、なんてことない言葉ですけれども そこに思想感というものがあらわれているのではないかなと思います もう一つは日本というものが非常に その植物が育つような気候・風土を持っているということ それも大きな背景に考えることができますよね 例えば、これがですね 砂漠地帯だったら植物というのはできませんよね 砂漠の地方に住んでいる人は
15:45 こういう神話は作らなかっただろうという風に思うんですよね やはりこれは四季がある そういう温暖湿潤ですね そういう気候というものが非常に 影響しているんだろうなという風に思うんですね 植物が成長できるようなそういう風土気候とか 風土の中に、私達はあるんだと 植物が自然に、何をする訳でもなく自然に生えてくるように 私達の身体というものもできてきたんだよ 成長してきたんだよ 成ってきたんだよという風に書いている訳ですね さあ、この成るという
16:31 そういうちょっと深いニュアンスを持つ言葉なんだけれども これ現代語訳ですが、この喋ったことを 言葉で表すのってなかなか難しいことですよね ちょっとこういうものを見てみましょう、次のページ 色々な文学者達、作家達がどういう風に このシーンを訳してきたのかというのを この授業では皆さんが読みやすい 現代作家のですね現代語訳であったり、近代作家の現代語訳であったり この古典をネタにした創作のお話なんかも どんどん紹介していきたいなという風に思っています それで今の作家達の 言葉の感覚、表現力というものをですね
17:18 それを自分の言語表現力を磨くことの 参考にしていただけたらなという風に思っています 福永武彦と田辺聖子そして池澤夏樹の3人の 作家達の訳を見ていきましょう 時間の関係上、ポイントだけ見ていきますが 興味ある方は選んでいるところを、また読んでおいてくださいね 福永武彦という、フランス文学者でもある人ですけれども この人は「お前の身体は、どういう風にできているのか」と 「私の身体は、これでよいと思うほどにできていますが」というね できているという風なことで書いていますね 田辺聖子は大阪の小説家で 『ジョゼと虎と魚たち』というのは
18:04 有名な映画にもなっていますから知っている方もいるかな それを書いた人ですけども この人も「君の体は、どんなふうにできたんだ」と 「わたしの体はうまくできあがってきたけど、 まだ足りない部分が一か所あるのよ」という風に できたんだという風に書いてますね それに対して池澤夏樹 これは福永武彦の息子に当たるんですけれども だから、親と、子供になるので 親子でどういう訳し分けをしているのかなというのを それぞれ読み比べてみるというのも 面白い読み方になるんじゃないかなという風に思いますが 池澤夏樹はこういう風に訳していますね 「きみの身体はどんな風に生まれたんだい」 「私の身体はむくむくと生まれたけれど」と
18:50 ここに、植物が、成長するという萌え出づるという ニュアンスを表現しようとなさったのかなという風に思いますね やっぱりこういうのってなかなか 私の中では考えつかない表現ですね 「私の身体はむくむくと生まれたけれど でも足りないところが残ってしまったの」と それを聞いてイザナキが言うには 「俺の身体もむくむくと生まれて、生まれ過ぎて余ったところが一箇所ある」 「足りないところに余ったところを差し込んで国を生むというのはどうだろう」 と言うとイザナミは「それはよい考えね」と答えたという風に 「成る」というニュアンスですね それをむくむくと生まれるという風に表現していますね
19:35 皆さんどうでしょう あたしもっといいのあるわという方がいらっしゃったら また書いていただけたらなと思います もう一つ紹介しておきたいのは こうの史代という人の『ぼおるぺん古事記』という 『古事記』を題材にした漫画があるんですけれども これが非常にすごいんですね こうの史代という人は『この世界の片隅に』という アニメの映画にもなって、のんさんが、声優をしたということでも 話題になったアニメの戦争をテーマにした それの原作者でもあるんですけれども 『古事記』の原文をもうそのままなんですよ 訳とかじゃない、原文をそのままあげているんですね
20:20 それを漫画で表現することによって 原文が読めてしまうという凄い漫画なんですけれども しかもこれは、全部ボールペンで描いている ボールペン1本で描いているというのもとっても凄くて もうちょっと感動ものの漫画なので 漫画好きな人は是非読んでいただけたらなと思うんですけれども どういう風になってんのというのに対して 足らないところが一箇所あるのよと 余っているところが一箇所あるんだよと 一緒に合わせたらどうだろうという提案をして いいわねとOKを出しているんですね こういう絵で表現しているというのがとてもすごいなと思って 私はちょっと感動しましたのでご紹介します 是非興味を持った方は読んでみてください
21:07 こういう風にして、国が生まれていくということになっていく訳です ここでちょっと一旦切りますね 休憩してから最後の動画を見てください