0:00 はい、それでは最後のシーンを読んでいきたいと思います 二人の合意を得たということでその後どうするのかということですね 読んでいきましょう イザナキは言った、と 男の方が言った、と 「それでは二人で、この天の柱を回り、出会ったところで交わりをしよう。 あなたは右から行って。 私は左から回ろう」 という風に提案をするんですね 先ほど柱を立てていましたよね その二人がいてる訳ですよね あなたは右からいってと イザナミさんは右から行ってと 自分は左から回ろうと そうするとここでまた出会う訳ですね この出会ったとき、というのはここですね
0:45 そういう風にして回っていって出会ったときに まずイザナミですね、女の神様の方が 「あなにやし、えをとこを」と言ったと その後でイザナキが「あなにやし、えをとめを」という風に 二人で声を掛け合ったんですね 「あなにやし」という言う声をお二人がかけ合ったと それで二人は交わりを持って、結婚ということになって そのあと子ども達を生んでいく それが日本列島になっていく、という国生みなんですね 何かを生み出すという、生殖というのが 一番神聖で大事な行為ということで ここで描かれているんですけれども
1:30 そのときに二人がかけあった言葉「あなにやし、えをとこを」 「あなにやし、えをとめを」というのは いったい何を言っているの、ということなんですけれども まずこの「あなにやし」というのをちょっと長い 5文字もありますが、これは感動しているんですね ああとかまあとか、そういう感動している言葉 感動したときに自然に発する言葉というか 口から出る言葉ですね それが「あなにやし」となります 「えをとこを」男と乙女というのはわかるよね ちょっとわかりにくいのはこの「え、を」という形ですね この「え」というのは 『古事記』の原文を見ると、愛という字が当てられているんですね
2:18 愛すべきとか愛すべきすてきなとか 男よ乙女よ(女よ)ということなんですね 「を」というのはまたこれ感動していると だから直訳的に言うと「まあいい男ね」と「まあいい女ね」という風に お互いに褒め合った後、まあすごいイケメンとか イケ女とは言わないかな、そういう風に言ったということになる訳です このプロセスもとてもいいですよね こういう風に交わりをしようと思うんだけれどどう思う? というまず提案をして、いいわねという風に合意を得て そして二人で儀式的なことをして
3:06 お互いにいい男ねいい女ねという風に褒め合うという こういうプロセスも何かとっても シンプルで素朴な形ですけれども、とてもいい形だなと思います で、今日は文学的に考えたいのですけれども 文学的にはこの2つの言葉というのがとっても大事だと思うんですね というのは、この2つの言葉はほぼほぼ同じ形を取っていますよね 「あなにやし、え」「を」というのは全く同じ形で ここが男か女かというこの違いだけなんですよね
3:53 男という風にするか、女という風にするかという それだけの違いになっているんですね 「をとこ」というのと「をとめ」というここだけが違っていて 残りの形というのはほぼほぼ同じ形でお互いに言い合っているんですね 今の分かりやすい例で言うと 多分「あれに似ているな」と思われた人もいると思うんですけれども 私は詳しく知らないけれども、ラップというんですか あれは韻を踏んで、お互いにこのラップを重ね合うというようなことも なさるみたいですよね 違ったらまた言ってくださいね ああいう韻を踏むという音楽
4:38 やっぱり韻を踏むという一つの面白さ 言葉で韻を踏んでいってフレーズを重ねていく歌詞 色々皆さんが知っている中にもあると思うんですよね あの韻を踏むという形を取っている 音楽の原点というのかな 歌の原点の形というのは、この言葉の掛け合いの中にあるんですね こういう風にある人が言ったことに対して ある人がまた返事をするんだけれども それが1種の韻を踏む形になっていて 和しているというのを ちょっと難しい言葉で言うと唱和するという風に言うんですね
5:24 唱というのは称えるとか「歌う」という意味ですね、そして和すると この唱和の形というのは、ここの中で 『古事記』の一番初めのエピソードの中に出てきている これが台詞なんだけれども、歌でもある訳ですね 韻を踏んでいて、そしてフレーズ的に同じような形で歌でもあるという この2つの台詞というのが歌の原点だという風に ずっと古典の世界で考えられてきていたんですね そのことを押さえておきたいと思うんですね 例えば4番に挙げた、二条良基という室町時代の連歌師が作った 『筑波問答』という連歌論というものがあります 連歌というのは5・7・5・7・7
6:10 5・7・5・7・7という風に その5・7・5・7・7をですね、ずっと繋げていくという 連ねるという風に書きますよね、歌を連ねる形 これを連歌という風に言うんですけれども その連歌論の中でこういう問答があるんですね 問いと、「連歌はいつの時代から始まったんですか」 という質問に対して、答え 『古今和歌集』の仮名序に紀貫之が書いているようにと 『古今和歌集』という日本で最初の勅撰和歌集として 和歌の代表的な作品集ですけれども、その序文で紀貫之という人 この人また後の授業で出てきますが、紀貫之が書いているように
6:57 天の浮橋のえびす歌 これがこの「あなにやし」のやりとりなんですね これが連歌であると、いつの時代からですかと この「あなにやし」のやりとりがもう連歌なんだよと 歌を二人でいうのを連歌と呼ぶんですよ という風に室町時代の人が言っているんですね その室町時代の人が根拠にしたのが この平安時代の『古今和歌集』 和歌の一番最初の代表的な勅撰和歌集として 一番最初の代表的な平安時代に作られた作品ですね その中で仮名序で紀貫之が この歌というものはどういうものかということを語っている時に 「天地のひらけ初まりける時よりいできにけり」と
7:44 天地創造の時からできたんだよと その時からもう歌というのはあるんだと いう風に紀貫之が書いているんですね そうするとこれはその原点がこの『古事記』にあると これが歌だという風に考えられているということですよね でもよくよく考えてみると イザナキとイザナミは歌おうというつもりで言ってないよね 普通に言葉なんですよね 台詞なんだよね、ああいい男とああいい女と思わず出た
8:31 相手を見て、ああいい男、いい女と思わず出た言葉ですね それがもう歌になっているから、歌と言葉って 会話とか自然に発する言葉というのが 非常に近しいところにあるということですよね そして偶然か分かりませんけれども そういう風に自然と発した言葉が、おのずから韻を踏むと そして唱和の形になっているんですね だからこれが歌の原点だという風に考えられている 歌うことと、こうしておしゃべりして語ることという それがどちらが先かどちらがとか分からないけれども 非常に近しい同じ線上にあるという認識ですよね
9:17 そういう風に日本人達は考えてきているんだということが ここから一つ見てとれるのではないかなと 語った言葉というのは、最初に『古事記』の序文で 太安万侶が言っていたように、日本人が語っている言葉は 非常に純朴な言葉でしたね 心素直な言葉を語っているからそれを文章表現では書きにくい 漢文の文章表現では書きにくいという風に言っていましたが 非常に素直にピュアに発した言葉ですね それが私達が自然と語った言葉というのが歌になっているんだと だからそれが、ちょっと飛躍しているかもしれないけれども
10:02 私達が今でも歌は好きですよね 色んな歌手の歌を聞いてこうジーンとしたりしますよね そういうところにも繋がってきているのかもしれないな、なんて 色んなことが考えられると思います 思いが自然と歌となるということですね 私達の思いですね、純粋な思いというのが歌の原点であると 今はその和歌を読もうと思うと、とっても身構えてしまいますよね 宮中の歌会はじめのような感じで 非常にプレッシャーを感じてしまいますけれども
10:48 そうではなくて自然に発した言葉が歌になっているという それが和歌の原点、原始の形なんだよということですね それはやはり一つ文学の性質として 押さえておいた方がいいことだと思いますね そういうことを押さえて 今の歌、今流行っている歌なんかを考えてみると また新たな価値観が見い出せたり あぁやっぱり歌っていいなとしみじみと思ったり することもあるのではないかなという風に思います さあちょっとその後のエピソードを簡単に見てみますね 言い合ってですね 二人の子供が生まれたんだけれども思うように育たなかった、と そこで天の神様に相談しに行ったところ
11:34 イザナミですね、女の方が先に言葉を掛けた まず、イザナミがいい男ねと言っていましたね これが良くないんだという風に言われて 改めて男、女の順にやり直したところ 淡路島、四国、阿波~という 日本列島ができたんだよという風になっています この男、女の順にというのは 昔のそういう古代の人々の考え方をちょっと表わしている ジェンダーの視点から物事を考えるなら そういうことも『古事記』から読み取ることもできるのかもしれませんね その後も数々の神を生んだが 火の神を生んで、熱いですよね イザナミは死んでしまうと
12:20 亡き妻を忘れることができないイザナミは ごめんなさい間違っていますね、イザナキですね イザナキは、失礼しました 黄泉の国に訪ねて行くと そこでまだどういうことがあるのかと 見るな見るなと言われたイザナミの姿を、イザナキは見てしまうんですね 見るなと言われるものを見てしまうというのは 日本昔ばなしでも鶴の恩返しとかでありますよね 機織りしている音が聞こえて、見たら鶴だった ああいう物語の原点というのも、この『古事記』の中にあるんですね ですから、『古事記』というのはもう色んな意味で 見て面白い文学作品です 色々な物語のパターンの原点というのがここにいくつもあります
13:08 そういう意味でも物語の原点という意味でも非常に面白い文学作品ですし ちょっとここに書くと分かりにくいかもしれませんが 『古事記』というのは様々な物語の原点 話型というんですかね、話のパターンですね それがいくつもあります ですから、そういう意味で 読んであげるというのも一つ面白い読み方だと思いますし 今回私が特に注目したいのは 「語る」ということと「歌う」ということですね これが日本文学の原点にあるということです
13:55 日本の国の文学というのは語ることと歌うこと これが原点にあると それをいかに書き記したらいいか書き留ればいいのかというところで まだ日本独自の文字を持っていない『古事記』の時代というのは 非常に苦労があったということですね それをいかに書き留めていけばいいのか 書き記していけばいいのかというのが 一つ大きなテーマとして昔の人々にはあった まだ平仮名という文字が『古事記』の時には発明されていませんよね ですから、どういう風にこの中国の文字を使って 自分達の歌い語りを書き留めていけばいいのかという それが一つ大きな挑戦としてこの『古事記』の中にあったんだという意味で
14:43 とっても面白い、どきどきする物語だと思います プロジェクトXとして読んでいただくのもいいし 物語のパターンというものを見る、という読み方で見ることもできるし あと歌と語りですね こんな関係を考えるという意味でも見ることができる 他にも色々な視点から読み解くことができる文学作品 非常に読み応えがある 読む人によって色んな発見があると思いますので 皆さんも是非ですね、これを機会に 手に取っていただけたらなという風に思います 下段に読書ガイドを付けておきました なるべく毎回幾つかご紹介したいと思います これはもう私が調べられた、そして見たことがある範囲で書いていますから
15:32 もっとこんな本もあるよと皆さんの中で見つけた本があったら また是非ね、教えていただけたらなという風に思います 今日はですね、原文と現代語訳では勿論 全集的なハードカバーのしっかりした本もたくさんありますけれども 手軽に、お値段的にも手軽に手に取りやすいものとして 文庫本を中心に紹介したいと思っています 角川ソフィア文庫 他にも色んな文庫の中で『古事記』は取り上げられていますので そちらが好きな方は是非それを見ていただけたらいいと思うんですけれども 一応ソフィア文庫というシリーズが古典を出しています
16:19 その中で『ビギナーズ・クラシックス』のソフィア文庫と 普通のソフィア文庫とあるんですね 『ビギナーズ・クラシックス』の方は非常にビギナーズと書いているように 初心者でも、古文苦手やわ、という人でも 読みやすい文字の大きさとか、ルビがしっかり付いているとか とても配慮がされているので ちょっと苦手だけど知りたい、という方はこれがおすすめですね これは全部、全文ではありません 主要な名シーンを読みやすい現代語訳で読めます ポイントになる場面は原文も添えられているから 読み比べもできるんですね 原文ではどうなってんのかなという読み比べもできるし
17:06 コラムや付録でもっと勉強したい人は こういう本を読んだらいいですよというガイドも付いていますから まずとにかくちょっと触れてみたいという人にはおすすめです ガッツリ読みたいよ、全部読みたいよ、という方には この現代語訳も付いていますからね 『新版古事記』というものが 原文・書き下し・現代語訳が揃っていますから こういうものもあります これはやはり色んな文庫であるいはハードカバーで出ていますから それぞれ皆さんがやっぱり 読みやすいのと読みにくいのってあると思うんですね 好き嫌いってあると思うので ちょっと色々手に取ってみたり、ネットで調べてみて ちょっとこれやったらいけそうかなというのを読んでみたり
17:53 また図書館にも幾つかあると思うので、図書館で調べてみて 実際に手に取って 自分と相性の良いものを選んでいただけたらなと思います あと訳文だけでいいと、現代作家あるいは 近現代の作家が手がけたものというものも なるべくご紹介したいと思います やっぱり作家の訳というのは、しっかり原文の世界というものを この作家の身体を通して そして作家が独自の言葉で紡ぎ出しているものです その言葉のセンスというのかな 非常に学ぶところが多い表現力というのかな これをこういう風に訳すんだ、という発見がたくさんありますので
18:39 是非そういうので、上質の現代語というものですね 日本語というものに触れてほしいなと思っています 福永武彦、田辺聖子、池澤夏樹 今日ご紹介しましたね、こういう名作家達がそれぞれ手がけておられます 他にも作家が手がけておられるものを 橋本治さんとか色々ありますので これも興味がある方は調べてみてください あるいはこんなのを読んで、この人のも良かったよというものがあったら また教えてもらえたらいいなと思います 漫画は今日ご紹介したこうのさんの『ぼおるぺん古事記』 これは3巻までしかないんですけれども、その画力もすごいし こんなシンプルだけれども、本当にたくさん 何て言うのかなタッチを重ねて描いているんですね
19:26 そういうところも非常に見応えがあります おすすめです あと青空文庫というインターネット上で無料で テキストが公開されているものもあります 青空文庫でネットで検索してみてください 「青空文庫 古事記」とか入れると 無料で読めるものがいくつか上がっています 色々な入り口がありますから 自分が入りやすいものでいいと思うので 最初からいきなり原文を読むのは、私でもハードルが高いですから こういうものでまずは、関心を持って読んでみるということが 大事だと思いますので、是非読んでみてください また、おすすめのものがあったら また感想のところなんかに書いてくださって 教えてもらえたら、皆でまた共有したいなと思います
20:14 では今日はここまでにします、お疲れ様でした