0:00 はい、では最後、もう少し突っ込んで この『落窪物語』のモノコトを考えてみたいと思います 今まで読んだところだと 落窪の姫、落窪の君は、あこぎや帯刀やそして王子様の少将に助けられて 幸せな世界に行くことができたということで 何となく主体性がないように見えてしまうんですけれども 実はそうではなくて、この『落窪物語』の中では 落窪の君は、他人任せの運命に流される女という形では 描いていないと思うんですね そこがやはり日本版シンデレラの一つの特徴というか
0:45 描き方なのではないかなという風に考えています そのことを少し見てみたいと思うんですね 特技が身を助けるという風にしました 落窪の君の特技は、お裁縫でしたね これはまた最後に紹介していますけれども 『おちくぼ』は漫画にもなっているので 面白いですからね 軽く読めますし、やっぱり絵で見れると嬉しいよね こういうものなんだな、というように ちょっとイメージが沸くというところもありますから こんな漫画なんかも使ってね 読んでみて世界に触れていただけたらなという風に思います これはね、3日目の晩、大雨の中
1:31 少将が通ってくれる雨の夜のシーンなんですけれども ザアザアと雨が降っていますよね そんな時、一人で縫い物をしている落窪の君が描かれているシーンです この縫い物ですね、裁縫が非常に特技でしたね 「ひねり縫ひ」という高度なテクニックもできる落窪の君でした その裁縫の技、それは三女の婿ですね 継母の娘の婿さんも認める腕前だったんですね 落窪の君が縫った装束を褒める三の君の婿というのが出てくるんですね 蔵人の少将の君という人ですけれども 「この装束ども、いとよし。よく縫ひおほせたり」と
2:18 この三女の婿というのは 「良いものは良いよ」「悪いものは悪いよ」という風に はっきり言う性格の人という風に物語の中では描かれています だから良いものは良いと 誰が縫ったであろうと、良いものは良いと 出来が良いものは良いという風に褒める人なんですね その三女の婿が「この装束ども、いとよし。」と 上手いと 「よく縫ひおほせたり」と 「上手く縫えてるね」という風に褒めている訳ですね この三女の婿も認めるような裁縫の能力ですね これが落窪の君の代名詞のようになっていきます こんなシーンがあるんですね 帯刀がうっかり落とした落窪の君の手紙
3:04 落窪の君と、その後少将とはちゃんと手紙をやりとりできるようになるんですね それをうっかり帯刀が落としてしまうんですね それを見た三の君の婿 この人がお手紙を見て「手こそいとをかしけれ」と 手というのは筆跡のことです 「文字、とっても上手に書いているね。綺麗な文字だね」と言う訳ですね そうすると、三の君が 「落窪の君の筆跡だわ」と言う訳ですね そうすると「落窪の君って誰?」ということですね 「誰のことだい。あやしの人の名や」と、変わった人の名前だね という風に言う訳ですね やっぱり落窪の君というのは人の名前としては変わった名前なんですね
3:55 「変わった名前だね」というんですね そうすると三の君が「そういう風に呼ばれてる人がここに居てるんですよ」と その人は物を縫う人ですよ、という風な紹介のされ方をしていきます 物縫ふ人というのが落窪の君を表す言葉として 皆が認識するようになってきているということが分かりますね それはいじめている継母も、やっぱり思っている訳ですね その実力だけは認めているから、色んな縫い物をさせているんですね こんなシーンもあります 縫物のおかげで餓死をまぬがれるということなんですけれども 物置に落窪の君を幽閉していましたよね その北の方、最初はね、本当にひどくて
4:42 食べるものも与えないんですね だからあこぎが何とか工面して持ってきているんですけれども 差し入れをしていたんだけれども あまりにも食べ物を与えないのもな、ということで 継母が「日に一度物食はせむ。」と、一回は食べさせようと 「物縫ひにより命は殺さじ」と あの子は縫い物ができるから、ということですね 「縫い物をさせるために生かしとこか?」みたいなことですね 命は殺さずにおこうという風に言っているんですね だからこういうことですね 縫物のおかげで餓死をまぬがれるという この「物縫ひ」という能力によって 姫君は死をもまぬがれることができたという
5:33 ひどすぎますけれどね、北の方がね ということで、この「物縫ひ」という特技によって 落窪というものは 特技が身を助けるという、一芸ですね 最初は嫌で嫌で 縫い物がたくさん来るからもう死んでしまいたいと思っている程の 縫い物だったんだけれども それが自分を表すものにもなり 自分を救ってくれるものにもなっていくんですね その後ですね 幽閉された落窪の君を、王子様、少将が連れ去りますよね 皆が出かけている時に どこに行ったんだということが、分からなくなってしまう訳ですね
6:21 行方不明になってしまう その後ですね 最後の娘さんである、四の君の結婚も決まりました 中納言家では準備で大騒ぎと、結婚の支度をしないといけない訳ですね やっぱり縫い物、衣装も整えないといけない訳です その時、北の方「落窪といふ者のあらば、うち預けて縫はせまし。」と 「落窪がいてたらなあ」と言う訳ですね、「生きてたらなあ」と 「うち預けて縫はせまし。」と 「縫い物をさせたのになあ」ということですね 「いかによからまし。」と 「どんなに上手く縫っただろうになあ」と
7:10 「仏、これ生ければ、来るやうしたまへ。」と もう死んでいると思っている訳ですね 「仏様!落窪が生きているならば、連れてきて」という風に 仏様にもお願いをするくらいですね 「生きてたらなあ」と いなくなって、姿が分からなく どこへ行ったか分からなくなってしまいましたから 「落窪がいたらなあ」と 「縫物させたのに、どんなに上手に縫っただろうか」と 「落窪が生きているなら、仏様、連れてきてください!」 という風にお願いする それで、蔵人の少将の君、三の君の婿さんですよね、も
7:58 「御衣どもわろし」と 「着物の縫い方が最近よくないね」という風に 出入りするにつけ、お小言を言うと この人、良いものは良い、悪いものは悪いと言う人でしたね だから「最近ちょっと着物の縫い方がよくないね」とはっきり言う訳ですね と出入りするにつけ、小言を言って 「こんな出来悪いの着られへんわ!」と お召しにならない時もあるので情けない もう今まで縫物は落窪の君に頼りきりだったので 縫えないですね 娘4人もいてますけれども、そんな上手に縫えないですね ということで、ぐっと衣装の出来がレベルが下がってしまって
8:46 北の方、困り果てるということになります 一方、落窪の君を連れ去った少将宅ではですね 落窪の君がせっせと少将の衣装をこさえる訳ですね その落窪の君が仕立てた少将の新年の装束は ただ単に器用に縫えるというだけではなくて 色々な、ファッションセンスというのかな 美的感覚も、落窪の君は優れていたんですね 色合わせをはじめ、非常に美しいと 衣の色を「これとこれを組み合わせたらいいかしら?」みたいな そういう色合わせも大変美しいと それで「御母北の方の見たまひて、」と 少将の母親のことですね
9:35 落窪の君から見たらお姑さんということになる訳です お姑さんもごらんになって 「あなうつくし。」あなというのは感動してましたね 「まあ、美しいこと!」と 「いとよくしたまふ人にこそ」 「上手にする人ね、縫い物上手いわね!」という風に言う訳ですね 「縫い物が上手な人でいらっしゃるわね~」と 「内裏の御方などの御大事あらむには、聞こえつべかめり。」と ちょっと難しいですね 内裏の御方というのは、これはね少将の妹さんなんですけれども
10:25 天皇の女御になっているんですね 天皇の奥様、天皇の女御の大事な時、大事な儀式とか 「そういう時には頼みたいわ!」と 「縫い物上手だから頼みたいわ!」と 「針目などの、いと思ふやうにあり」と 「針目がもう自在に理想通りになっているわね」という風に言う訳ですね 「目も美しくて思っている通り、理想通りの素晴らしい出来栄えだわ」と 大絶賛しているんですね
11:11 天皇の女御の衣装を仕立てることができるという 並々ならぬ栄誉ですよね そういう風にお姑さんも大絶賛してくれるということで 落窪の君は気に入られる訳ですね、お姑様に気に入られて 裁縫が上手で良かったわ、頑張ってやって良かったわと いう風になっていくんですね そうすると単に落窪の君が周りの人々から助けられて 少将から救い出されてハッピーになったというだけではなくて ちゃんと自分で力を蓄えていたということが分かりますよね
11:57 ここが、やっぱり単なる夢物語 いつか私にも王子様が現れて、見つけ出してくれるのかしらと 魔法使いが魔法をかけてくれてですね 素敵な衣装に変えてくれて、舞踏会にも行けてとかいう 夢物語ではなくて ちゃんとした、地に足が着いた物語になっているんですね 周囲の人に助けられるだけではないと 本当に自分の力というものを持っていて それで自分の運命というものを開いていっていると
12:53 だから単純な継子いじめの話では、これはないんですよね きちんとそれぞれの人が生き生きと描かれていて そして地に足が着いているという そういうところがとってもこの『落窪物語』の 魅力なのではないかなという風に思います まあ、最初は死にたいと思っているようなことでも ちゃんと続けていけばレベルがアップするし もちろん落窪の君のもともとの素質はあると思うんですけれども 何でも嫌なことでもやっておこうというのは大事かもしれませんね それがいつ自分を助けてくれるか 分からないものかもしれないな、なんていう風に思ったりもします
13:38 さあ、この『落窪物語』をもっと読んでみたいわと、とても面白い話ですし いろんないじめもあるし、それを切り抜けていくのも面白いし その後の仕返しのね、どんな仕返しをしたのかしらとか 色々読みどころがありますから 是非、手にとって読んでいただけたらなという風に思います 原文と現代語訳と読み比べながら 原文ではどういう風に書いているのかなというところを これを全部原文で読むのはなかなか最初からは難しいと思うから 現代語訳で読んで、ちょっとこれ気になるなというところだけ 原文ではどうなっているのかなという風に見る、という読み方で 全然いいと思うんですけれども
14:25 そういう読み方したいなという人で、手軽に手に取れるもの 文庫本ではやっぱり角川のソフィア文庫のシリーズから 現代語訳付きの『落窪物語』が出ていますので そういうものを手に取っていただけたらと思います あと作家が手がけたものとしては 氷室冴子さんの『落窪物語』もありますし 田辺聖子さんの『おちくぼ物語』というものもあります これは最初は『舞え舞え蝸牛』というタイトルで出ていたんですけれども 近年『おちくぼ物語』という風に改題されています 私はこっちの方で読んだんですけれどもね これもとても面白いです あと漫画では今日ワンシーン引きました
15:11 山内直美さんの『おちくぼ』というのが全6巻ですけれども そういうものもありますので ご自分の読みやすいもので、楽しんで読んでもらって もう一歩踏み込みたいなと思った時に 原文にちょっとチャレンジしてみるという楽しみ方もあるのかなと思います 氷室冴子さんはちょっと話が逸れますけれども 『なんて素敵にジャパネスク』とか『ざ・ちぇんじ!』という 読んだことある人もいてるかな? 私の時はコバルト文庫というのがあったんですけれども 今はあるのかな、ないのかな? それで、平安時代を題材にした恋愛物語とか そういうものを作ってらっしゃる方で
15:56 『なんて素敵にジャパネスク』と『ざ・ちぇんじ!』もとっても面白いから 是非読んでほしいなと思うんですけれども その氷室冴子さんも手がけてらっしゃるし 田辺聖子さんは前も出てきたかな この方も訳していらっしゃいますね 山内直美さんはこの氷室冴子さんとタッグを組んで 『なんて素敵にジャパネスク』なんかも漫画化しているんですね だからマンガで読んでもいいし、文章で読んでもいいし 平安時代にちょっと興味がある人は手に取ってみてくださいね 下段には田辺聖子の訳をあげました 今日の典薬の助がお尻が大変なことになっているシーンなんですけれども 田辺聖子さんは大阪の人なので、関西弁というものを
16:45 本当に小説の中でも巧みに使いこなしていて この『おちくぼ物語』の中でもこの典薬の助が関西弁なんですね 「おや…どないしたんや、これは」という風に言うとって あとは「ううむ、かなわんなあ…」とかですね それでとってもその典薬の助の性格付け、キャラ付けというのかなをしていて それもとても軽く読めるし、あこぎと帯刀の掛け合いなんかも 本当にボケとツッコミみたいな感じで書かれていて とても楽しい訳になっていますから、是非こういうものも手に取っていただけて そして皆さんの色んな世界を広げてもらえたらいいなという風に思います
17:30 では今日はここまでにいたします、お疲れ様でした