0:00 はい、こんにちは、第4講です 今日は『伊勢物語』を皆さんと一緒に読んでいきたいと思います では、早速ですけれども まず文学史的なことを押さえていきましょうね まずジャンルは、これ今日初めて出てきますね 「歌物語」というジャンル区分になります 後でまた説明しますね 成立は平安の前期、大体900年頃 大まかな時代区分でいうと、中古ということになります 作者は分かっていません さあ、最大のポイントはですね これは、現存する最古の歌物語ということですね 歌物語ということはつまりこの歌、和歌ですね 和歌が、ストーリーの中心になっているんだよという そういうジャンル区分されています
0:48 歌というのは『古事記』の時に 「あなにやし」でありましたように 歌というのは素朴なピュアな思いですね それを言葉として発したもの それが歌の原点だという風にやりましたよね つまり、私達の感情がこう揺れ動く その感情というものをそのままに 声に、言葉にしたものということですね そういう風に和歌というのは一つの思いだよね 私達の思いを伝えるための 一つの手段、表現手段であったということですね 和歌というものは思いを伝える 大事な表現手段の一つ
1:35 色々な思い、色々な時に感情は動きますよね 色々あるけれども、その中でも やはり恋愛の思いというのも一つある訳ですね 『伊勢物語』の中心は、こういう恋愛の歌が中心で 勿論それだけではないんですけれども 恋愛の歌のやりとりというものが物語の中心に据えられて ではそれをどういう風なシチュエーション どういう状況、どういう展開で そういう歌を詠むようになったのかなということを 一緒に、ストーリーと共に読み味わうというね それが『伊勢物語』を読む楽しさになってきます さあ、この『伊勢物語』ですが、主人公とかいうものは この「男」なんですね
2:21 その男の話として、大体のおおよその物語が始まっていきます 有名な書き出しですけれども 「昔、男ありけり」という形 あるいは「昔、男」とかいうね 「昔、男がいた」 何々さんとか、どこに住んでいる誰それさん という名前を書いていないんですよ 「昔、男がいた」という風に始まる訳ですね それで皆は、それぞれ読者達はですね それぞれの頭の中で「男」 自分の理想の男を描く訳ですね そういう風にして物語を楽しんでいた その昔の男の、一代、生涯を綴るような一代記風な構成 その「昔、男ありけり」というショートストーリーですね
3:07 短いお話をたくさん連ねることによって その男の一生を、描き出すような構成になっています 『竹取物語』の時にも、書き出しが「いまはむかし」というね 「むかしむかし、おじいさんとおばあさんが」という 物語の書き出しをすることによって 時間の設定、あるいは舞台の設定というのをして 一つの物語の空間というものを作り出す働きが 冒頭の書き出しにあるんだよ、という話をしました 『竹取物語』の時は やっぱりかぐや姫が天上界に帰ってしまうように ちょっと現実離れした、ファンタジー的なですね お話の要素というのが強かったんですけれども
3:54 『伊勢物語』の場合は、より現実感のある、と言うのかな リアルな世界に近い物語として、読む人達は読んでいたんですね というのはこの「昔、男」ですね 「昔、男」のモデルとして、この実在の人物が指定されていたんですね 「この人じゃないかしら」という風に皆が思いながら読んでいた その人物が「在原業平」という 非常に和歌が上手な男ですけれども この人をモデルにして皆は読んでいたんですね そこから『在五中将物語』という風にも この『伊勢物語』の別名ですね としても呼ばれておりました これはね、どういう書名の付け方かと申しますと
4:43 このモデルの「在原業平」という人が 在原さんですよね、「在」原さんの「五」男なんですね それで宮廷での官位、ポジションが 右近衛権「中将」ということで『在五中将物語』と つまり業平の物語だという風に呼ばれていたということなんですね 内容は今申しましたように、この「昔男」の恋愛と生涯を 和歌が中心ね、和歌を中心とした短いお話を連ねて 構成するというのが『伊勢物語』になります だから一段一段のお話がとても短いので それで『源氏物語』みたいに
5:29 敬語がたくさん使われるということも少ないですから ちょっと古文が苦手という人でも、是非挑戦してみてほしいなと 現代語訳と、そして原文と並べながら読んで 現代語訳はこういう風に訳すんだ、みたいな風に読んでもらえたら とても面白く読めるんじゃないかなという風に思います さあ、今日はその中でも 二十三段の「筒井筒」というお話をちょっと取り上げて 皆さんと一緒に読んでですね、考えてみたいと思うんですね この「筒井筒」 二十三のこれは「つついづつ」という風に読みます 筒井筒というのは これは学校の教科書なんかでもよく取り上げられるお話なので
6:19 知ってるよという人もね 多分いらっしゃるんじゃないかなという風に思います 『伊勢物語』の中でも非常に有名な章段です これは幼なじみの恋愛を描いているお話なんですね では、早速読んでいきましょう 「むかし、ゐなかわたらひしける人の子ども、 井のもとにいでて遊びけるを、」という風に始まりますね 昔の話ですね、「むかし、」という風に始まっていきます ここは男ではなくて、子供達の話 幼なじみだから、まだ「男」という形ではなくて こういう風に登場しますね 「ゐなかわたらひしける人の子ども」 田舎だね、地方ですね 地方で暮らしていた人のお子さんが、主人公なんですね
7:08 だからお父さんがですね、地方官なんかをしていたんでしょうね そういうことで田舎で暮らしていたと その子供が主人公です その子供が、井というのは井戸のことですね、水を汲むね 井戸のもとに出て遊んでいたんですね 田舎、地方ということですから、都なんかよりも 何となくこう、のんびりとした穏やかな空気感の中ですね 子供達が、小さな子供達が無邪気に キャッキャキャッキャですね 井戸の周りで戯れ合っているという そういう何かちょっと微笑ましいシーンを思い浮かべてくださいね そういう風に、二人が、幼馴染みの子供達が
7:58 小さい時からじゃれ合って遊んでいたんだ、ということですね その子供達がだんだんとこう成長してくる訳ですよね 「おとなになりにければ、」と だんだん成長してくると、何となく もうじゃれ合っているお年頃ではなくなってくる訳ですよね 何となくこう恥ずかしいなと、異性を意識し出すという 皆さんも経験ありますでしょうか 思春期の頃というやつですね 「男も女もはぢかはしてありけれど、」 「はぢ」、「恥ずかしいなあ」と恥じるということですよね お互いに恥ずかしがると だんだんと成長してくると、意識し出すということですよね 意識し出して、何となく恥ずかしいなという風になって
8:46 何かこう言葉もかけづらいな、みたいな 何となくお互いのあれ、何となくこう 何かこう、昔とは違う壁があるようなね そういう状態に何となくなってきたと なんだけれども「男はこの女をこそ得めと思ふ」と なんだけれども、男は心の中で思っている訳ですね 「この女をこそ得め」と思っていたと 得るというのは前もやりましたね、結婚するということ、ゲットするね 男はこの幼なじみの女の子と結婚したいという風に 言葉では言わないんだけれども、心の中で思っていたと その思いというのはとても強いのね
9:31 ここに「こそ得め」というのが使われていますね これは高校で古文をやったの思い出してくださいね やった人は思い出してくださいね これは係り結び、という風に文法的には言いますが これで意味を強めるんですよね 強意の働きがあります、「こそ」というのはね だからもう「絶対に結婚したい!」という風に 「結婚するぞ!」ということだよね 男は「この子と絶対に僕は結婚するぞ」という風に、固く思っていた それで女の方はどうかと言うと 「女はこの男を」と思っていた 女の子の方もね「この人と!」という風に もうお互いに両思いなんですよね
10:18 お互いにもう結婚したいとまで思っていたと なんだけれども、女の方ですね 女の子の方には御両親がいてですね 御両親が「あはすれども聞かでなむありける。」と 他の男と結婚させようとする訳ですよね 親はですね、他の男と「もうそろそろこの人と結婚したらどうなの」 なんていう風に言うんだけれども この女の子は「聞かでなむありける」と 親の言うことは聞かなかった、ということですね 絶対に、この幼なじみのあの何々君と
11:04 一緒に私はなるの、結婚するのと言って 親の言うことも聞かなかったと そういう、もうそんな恋をしてみたいですね 小さい頃から二人はもう両思いということなんですね さてさて、ここで和歌が登場します 「さて、このとなりの男のもとより、かくなむ、」と このお隣の幼なじみの男のところから、こんな和歌が来たよ、と 男がですね、この心の思いを言葉にしてきた訳ですね それで、その言葉を受けて女の方も、自分の思いを歌にして 思いを確認し合う訳ですね 思いを確認し合うということを、ようやくしたということですね さあ、男の子の方はどういう風な和歌を詠んできたのかみてみましょう
11:53 「筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」 「筒井つの井筒にかけしまろがたけ」 「過ぎにけらしな妹見ざるまに」と 何を言ってるの、と思われた方が多いと思うんだけれども ちょっと、前から見ていきますね 「筒井つの」、井戸の井が入っていますよね その「井戸の」ということです 井筒というのは、井戸の周りに囲っている木の囲いのことなんですね ちょっと私はあんまり絵が上手じゃないんだけれども 木みたいなので囲っている、とね この中に井戸がある訳ですね もう一度書き直します
12:45 こういう風に木の囲いがあって 井戸の周りを囲っていないと、ぽちゃんと落ちてしまったら大変でしょう だから、井戸の周りを木で囲っていると それで、その周りで子供の頃は、無邪気に子供達が 戯れ合っていた訳ですね、幼い時は その、これが井筒ということになるんですけれども その囲いに「かけしまろがたけ」ということですよね これは何をしているのかというと 「まろ」というのは、私の、自分のことを言いますね 私のたけというのは丈だね、背丈ということです この井戸の周りのこの木の囲いに比べてきたよね背丈を、ということです
13:33 「どっちが背が高い?」とかね そういう「背丈を比べ合いっこしていましたよね」ということですね ちょっと分かりにくいかな? 井筒ですね 井筒で背丈を測ってきたと だから、最初の本当に小さい時はもう井筒に届かないね なかなか上まで届かないんだけれども だんだんと成長してきてという風に、だんだんそういう風に 井筒を基準にして背丈を測ってきたよねと その背丈が「過ぎにけらしな」な訳ですね もうこれを超えてしまったよと 大きくなったよ、ということですよね 自分はもう大きくなってしまいましたよと
14:23 「妹見ざるまに」と 「妹」というのは、「あなた」ということですよね あなたに会わない間に、あなたを見ないうちにと あなたに会わない間に僕大人になりましたと そういうことなんですね ここでですね あなたに会わないで、僕はもう立派な大人になっているんだよと いうことを言っている もう一つは、それだけ会っていなかったんだと もうお互いに小さい時は、男女の区別なく 戯れ合うことができるけれども もうそろそろの年齢になると、そんなに無邪気にね
15:11 この当時は戯れ合うことができないから、会えなかった訳ですね そういう風に「あなたに会えないな」 そのぐらいの間ですね、どれぐらいの時間が経っているかというと もう背がぐーんと伸びるぐらいの間が経ってしまったよと 「もうずっとあなたに会えていないなあ」とね つまり「会いたいなあ」ということですね 会いたいなと、それでこの会うというのはもう結婚したいなという 思いも秘めている訳ですよね だから、僕はもう立派に成長したから、君と結婚したいんだよという そういう思いですね
15:56 それを伝えたということになる訳です あとで今日は読み比べのところでご紹介するんだけれども 俵万智さんという短歌の、歌人の方も書いておられますが この「妹」という言葉 これが一つのキーになるという風にお解きになっておられますね あなたという、この「妹」というのは 何ていうのかな、誰にでも使える言葉ではないんですね 男が特別に思っている親しい相手、恋人とかね そういう人に使う時の、代名詞というんでしょうか そういうものなんですね ですから、これは親しい相手に使うと
16:45 ちょっと大人の言葉な訳ですね 恋人に対して使うような言葉だから、大人の言葉な訳ですね それを小さな、幼かった僕ちゃんがですね 君にと、いとしいあなたに、みたいな感じで この和歌の中で使ったということなので ちょっとすごく、背伸びしてではないけれども 頑張って思いを一生懸命伝えようとしている歌なんですよね その思いを女の子は受け止めた訳ですね 女がこういう風に返します 「くらべこしふりわけ髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」 比べ合いっこをしてきましたね、というね ここで背丈比べてきたねと言っていますからね
17:30 一緒に比べ合いっこをしてきましたね その比べてきた「ふりわけ髪も肩すぎぬ」と言っていますね ふりわけ髪というのは 小さい時はこういう、分かりますか おかっぱの髪型な訳ですね、男も女もね 「どっちが長く伸びた?」という風に 髪の毛の長さを比べ合ってきたわね、という風に言う訳ですね その比べてきた、髪の毛も 「もう肩をすぎてしまったわ」と 肩をすぎてしまった、伸びちゃったわ、ということですね だから、男の子の方が 背丈で「私成長したよ」というのを言ってきたことに対して 女の子の方は、髪の毛も、もう 「私の髪の毛も伸びたのよ」と
18:18 私もそれぐらい成長したのよ、いいお年頃になったのよ それぐらいあなたに会えてなかったわね、という そういうことをお互いに言い合っている訳ですね そして「私はもう肩をすぎました」と 肩をすぎたというのはどういうことかというと かぐや姫の時にあったように これは成人式をする訳ですよね 「私も大人になったのよ」ということですね さあ、いいお年頃 親が結婚させようとするような、私もお年頃になったのよと その髪の毛をですね 「君ならずしてたれかあぐべき」と あなたじゃなくて、誰のために、ということですね 「たれ」というのは誰ね 誰のためにあげましょうか、髪上げという儀式
19:11 これはいわゆる成人式という風に 平たく言うと考えてもらったらいいです 一体誰のためにこの髪を上げると 成人になりましょうかと 成人になるとは結婚できるようになりましょうか、ということだから あなたのために大人になるのよ私、ということですね つまり、あなたと結婚したいのよ、結婚しますということですね あなたと、あなたのために大人になって あなたと結婚したいのよ、という風に歌を返したと もう両思いの歌ですね、いいですね なんていう風な和歌を言い合いしてですね 「つひに」とうとう、「本意のごとくあひにけり。」と
20:00 本来の意志を通した訳ですね 本来の意志通りあったと、結婚したということですね ということで、二人は幼なじみの恋を成就させた 良かったねという、まずそこまでのお話な訳ですね さあ、ここでちょっと平安時代の常識を押さえておきましょう もう一度ね 平安時代の成人式です 男子は元服という風に言います、女子が裳着でしたね 大体お年頃としては、年齢は11歳から17歳ぐらい 男の子は角髪という髪型から元結 髷を結ってですね そして冠を着けるようになります
20:45 ですから、ふりわけ髪が伸びてきたら、こういう風に もうちょっと短いかな、絵が下手くそでごめんなさいね こういう感じの角髪というやつですね そこから元結という、ちょっと伸びてきたら髷みたいなのを結う訳ですね そこに冠をかぶせる、こういうやつですね、それで成人になる訳ですね 女の子の方は、お歯黒をつけると 黒いんですね、お歯黒をつけて 裳というのは、前回かな前々回だったかな、やりましたね
21:32 この後ろのプリーツのところですね これが裳でしたよね この裳を着けて、髪を結うということですから こうして、ちょっと絵が下手くそだけれども ここにプリーツみたいなのを着けて 髪の毛をこう結うということをする訳ですね これで男の子も女の子も、成人をするということになる訳です 元服と裳着という用語ですね 教員を目指している方は、覚えておいてもいい言葉だと思います 元服と裳着というのをして、成人式をしたんだということです さあ、この幼なじみの恋が、結婚しまして その結婚後どうなるかというのが、ちょっと問題なんですね
22:19 それを続けて、また次の動画で読んでいきたいと思います 一旦ここで、休憩しますね