0:00 さあ、第1回目は『古事記』を 皆さんと一緒に読んでいきたいと思います まず、『古事記』の基本知識を押さえておきましょう 教職を志望している方は この文学史的な知識もしっかり押さえておいてください もちろん教職志望でない方も一般常識として押さえておいてください 3点、ジャンルと成立と編者は それぞれの作品でこれからいつも確認していきます ジャンルは史書、歴史書になります 成立は和銅五年 こういう細かい年代よりも だいたいの時代区分を押さえておけばいいかなと思います 上代と言われる 上代・中古・中世・近世・近代という言い方聞いたことあると思いますね
0:47 そういう大まかな時代区分でいうと 『古事記』は上代の成立という風に言うことができます 編者は太安万侶という人物 この人については後でもう少しクローズアップしてみていきたいと思います 内容のポイントです まず「成立」ですけれども これはどうして、この『古事記』という作品が作られたのかというと 提案、考えたそもそものきっかけは天武天皇なんですけれども この天武天皇が壬申の乱という皇位継承争いですね これに勝った勝利した天武天皇が、天皇が政治をすること それを正当化し、そして国家の体制を整えようと 天皇支配の国家ということですね
1:32 その基盤を整えよう、そのために物語というものを作ろう 歴史の物語というものを編もうということを企画するんですね そこでミッションを出します 稗田阿礼という人物に 各地の氏族達の間で伝わっている「帝紀」と「旧辞」 これを暗記させるんですね 「帝紀」というのは、天皇家の系譜、系図みたいなものですね そういうものと「旧辞」というのは これは古い記録、神話とか伝説なんていう古い記録ですね 各地方各部族達の間で昔から語り伝えられてきた 天皇のその歴史であったり、神話的な話であったり
2:22 色々な物語が伝えられてきている訳ですね そういうものをすべて集約して、この稗田阿礼という人物が記憶したと それは頭の中で記憶するだけではなくて、その記憶の中には この『古事記』というのは歌謡も含まれている、「歌」ですね 歌も含まれているんですね 歌というのは、メロディーがありますよね だから抑揚とかイントネーションという、発音的な部分ですね そういうものも、正確にこの稗田阿礼という人が 暗唱したということなんですね すごい人物です 今は何でもコンピューターとか機械に頼ってしまうから
3:09 そんなこと、なかなか記憶力が衰えるばかりですけれども 昔はすごい人間録音機というか 人間コンピューターのような人物がいたんですね この稗田阿礼という人が暗唱したと 稗田阿礼が覚えているだけでは阿礼が亡くなってしまうと それは伝わらなくなってしまいますので それを書き記すということが必要となってきます それが次の段階です 天武天皇が、しかしながら志半ばで崩御してしまいます その遺志を継いだ元明天皇の勅命で 稗田阿礼が語り、太安万侶が文章に整えた この編者の太安万侶という人が編集、記録していった訳です
3:56 ですから、この『古事記』というのは 稗田阿礼と太安万侶というこの2人がタッグを組んで チームを作って成し遂げた、大きなミッションに挑戦したという 本当に大きなミッションですね、これは天皇様の命令ですよね 勅命、天皇の命令ですから 失敗するとか、難しいから途中で止めて放り投げるとか そういうことは絶対に許されないんですよね その国家プロジェクトに立ち向かったということですから 私はいつもこれはプロジェクトXという某番組を 思い出してしまうんですけれども あのテーマソングがいいですよね 中島みゆきの地上の星の この音楽を皆さん今日はバックミュージックに感じながらですね
4:43 この2人のプロジェクトというものを どういう風になし遂げていったのかという所を 見てみたいなという風に思いますね そうすると単なる文学というよりも 何かこの人間のドラマというものが感じられて 非常に昔の人々が苦労してようやくできた それを今私達が読むことができていると もうこれは奇跡に奇跡が重なったようなことなんですよね そういう非常にドラマチックな思いというものが それぞれの作品に込められているんだということを感じながら 文学を楽しんでいただけたらなと思います ちょっと余談でしたけれども、内容を見ておきましょう これは上中下の3巻から成っています 上巻には、序文 太安万侶の序文、後でちょっとだけ見ていきます
5:30 そして、神代の物語 神様達の時代の話ですね そして中巻は、神武天皇から応神天皇まで 下巻は仁徳天皇から推古天皇まで 天皇のそれぞれの時代のエピソードなんかが綴られています そうするとこの構成というのは、何を示しているかというのは お分かりになられますか? これは神代の物語から始まっているんですね 神様から天皇までの物語なんですね その始原というものが、神様におかれているということはどういうことか この『古事記』というのは、そもそもの意図は何だったかというと 天皇の政治を正当化して国家体制を整えるためでしたね
6:17 天皇が皆さんを人民達を治めるということは これは正当なことなんですよということを、示すために作られている 示すためにではどういう構成にしたらいいかというと 天皇のルーツというものが神様にあるんですよというようにした訳ですね 神様の末裔に我々天皇がいるんだよ だから天皇というのはすごいんだよという そういう天皇の権威づけ そういう意図というものが、この裏側に透けて見える訳ですね ですから、この『古事記』というのはある意味 そういった政治的な意味というものを持った 文学作品であったということが
7:04 性格として言えるということがあると思います ちょっと押さえておきましょう 神の物語ですね ここから始まっていると そのことによって、天皇の政治ですね それを権威づけるというんですね 天皇を権威づける そういう意図があったということですね さあそしてもう一つはですね これが物語ですね 各地、各部族達の中で語り伝えられてきたことですね それが記されているんだという、その語りというものが
7:51 べースになっているんだよということです これも是非押さえておきたいポイントですね 私達の物語、私達の国って、日本というのは どういう国なのかという事を考える時に 大きな問題であると思うんですね 私達の国の物語というものが 一つには神様の物語から始まっていること そしてそれは各地の各人々が語ってきた 語り伝えてきたものであるという事ですね 語られたものであると それはどういうことかというと、私達は物語を今読みますよね
8:37 物語というのは「物を語る」訳ですね だから私達が読む古典、文学作品というものは物語です それは何かを語って伝えてきた 何か語りたいという人々の思いですね それを語りによって伝えてきたもの それが今、私達が読んでいる物語なんだ その物語の原点にあるんだということですね その2つのことをまず性格として押さえておきたいと思います それではその物語を、稗田阿礼が記憶したものを書く訳ですけれども その時に太安万侶は大変な苦労をしたんだよ ということが序文に書かれています その苦労を、是非皆さん一緒に共有しておきましょう
9:25 太安万侶は苦労したんだよ ということが序文でつらつらと書かれているんですね さあ、どういう風に書いているか そこでまず押さえておきたいのが『古事記』というのは これは漢字で書かれているんだよということなんですね 今私達は、その漢字ばかりだと読みにくいですので それを読みやすいようにしたテキストで この授業でもこの後読んでいきますけれども もともとの原典ですね、これはこういう風にもう漢字ばかりなんですね 平仮名は入っていませんね 漢字ばかりで書かれているのが、『古事記』なんですね それはどういうことかというと、漢字ですね これは中国の文字なんですね 当たり前のことですけれども
10:11 でもこの『古事記』の時代にとっては、これは大変な事だったんですね 中国の文字だよと つまりどういうことかというと 日本人の日本固有の、自分達の文字を日本人は持っていないんですよね 今も漢字を使って書きますよね 平仮名というのが発明されていますけれども 『古事記』の時代にはまだ日本という 固有の文字というものがなかった訳ですね 外国の文字を使って自分が語ることを書くって これは考えただけでも大変なことです 例えばアルファベット
10:57 アルファベットだけを使って書けと言われたらすごく困りますね それと同じような事、そういう苦労という、だから どうやって、この漢字で喋ってきたことを書けばいいのという そういう大きな問題がドーンと立ちはだかっているんですね それはとても難しかったんだよということが 太安万侶がここの序文に書いていますから一緒に読んでみましょう 序文 「然れども、上古の時、言と意と皆朴にして、 文を敷き句を構ふること、字には難し。」 という風に書いているんですね ちょっと何を言っているか分からないと思うので一緒に ゆっくり読んでいきますね 昔は、いにしえの時は
11:43 言と心と皆素直だったよと 喋る言葉と、喋る言葉に思っている心を乗せればいい訳ですね それは非常に素直な思い 素直な思いを言葉として発していたんだという事ですね 素直というこれ「朴」という字は 例えば熟語で言うと 純朴という熟語がありますけれども 素直という意味ですね だからピュアな思いということです 私達日本人というのは 昔からピュアな思いをそのまま「は」という風に言葉に発してきたんだと だからその時にですね喋ることは喋っている時に
12:31 なかなか「文を敷き句を構ふる」 構ふる、構文とか構造の構えですよね だから、論理的に組み立てて喋るということ 喋ったり書いたりするということですね そういうことをするということは なかなか思ったことは「はー」とそのまま発声してきたので そういう論理を使うということですね それは難しいと 論理的な文章にするということですね 論理的に文章にするということ これをするということをしてこなかったから 自分達の思っていること、ピュアな思いを書くということは
13:19 字には難しいと 字とはこれは漢字ということですね 漢字を使って、ピュアな思い 私達の、日本人のピュアな思いを 表現するというのは難しいという風に言っているんですね なぜかというと、もうちょっと詳しく言ったのは次です 「己に訓に因り述ぶれば、詞は心に逮ばず。 全く声を以ち連ぬれば、事の趣更に長し。」 ここでは訓「よみ」と音「こえ」ということを言っています これは何かと言うと、漢字の訓読みと音読みということですね 漢字には訓読みと音読みがあるよね
14:08 例えば、この文という字は 音読みすると文「ぶん」だし 訓読みすると文「ふみ」ですよね そういう2種類、だから、音を表わす音声ですね 表音を表わす音読みと この漢字がどういう意味を持っているのかなということを表わす訓読み 文というのは、この漢字の意味を伝えていますよね そういう音と意味、両方あると、漢字は持っていると で、その意味の方ですね 文というこの訓読みの方を使って 日本人が思っていることを述べようとするんだけれども 「詞は心に逮ばず」ですね 漢字が持っている意味を使って
14:56 日本語というものを表記しようとするんだけれども なかなか及ばないと これは心、意味ですね 私達が本当に伝えたい思いというものですね だからニュアンスという風に言いかえてみましょうか 日本語のニュアンスを伝えるのに 漢字の意味となかなかピッタンコ合致しないんだ という風に言っているんですね 例えば「柔」ということですね これを表そうと思ったと 柔らかいでも色んな柔らかさがありますね フワンフワンしているとかプニュプニュしているとか 色々柔らかいでも違いがありますよね
15:42 私はこのプニュプニュしている柔らかさを言いたいけれど 何かこの漢字ではちょっとそのニュアンスが100%伝わりきらないな という風にですね なんだかこううまく微妙なニュアンスを言いたい時に なかなか合致しないんだという そういうもどかしさというものですね、それを感じている 100%ピッタンコで 伝えることはなかなかできないんだよということですね 逆にそれを音読みで、漢字の音で 書いてみようと、プニュプニュという風にですね ちょっとそれを漢字の音読みの音、「おん」ですね 音を借りて伝えてみようという風にするんだけれども そうしてしまうとプニュプニュだけで もう6文字使わないといけなくなる訳ですね
16:29 ですから、長くなってしまうと 長ったらしくなってしまうんですよということですね 音読みという漢字が持っている音ですね 表音ですね それによって読みを記そうとすると、文が長くなってしまうと だから、もうどっちもを使っても どっちを使っても何かうまくいかないな どうしたらいいんだろうなという風に 太安万侶は非常に悩んだ そこで解決策としてこういう方法を取ったんですね これはもうどっちかだけとすると これはうまくいかないということで 両方を使おうと、柔軟にしようと、対応しようとした訳ですね
17:15 音読みと訓読みを混ぜて使おうと 訓読みだけで記すこともしてみようと それを書いている訳ですけれども 書いている時はこういう風に漢字ばっかりになってしまいますので これは訓読みで書いたのか音読みで書いたのかという風に パッと見た人が分かりにくい時があると そういう時には注を付けることで対応しようという風に これは発明ですね 一大発明をしたということなんですね ちょっと見てみましょう 例えば、どういう風にしているか 例えばここに神様の名前が書かれています これは音読みだったら「じょうりゅう」という風になりますね 常立神という風になりますけれども はたして日本語で伝えられてきた読みは 「じょうりゅう」という読みじゃなかったんですね
18:02 だからここは「じょうりゅう」という音読みではなくて 訓読みするんですよ、この「じょう」と「りゅう」の字はという風に 注を付けている訳ですね これが注記です だから、この2つの漢字は訓読みするんですよと だから「じょうりゅう」ではなくて 「とこたち」という風に 漢字の訓読みの方を使って読んでくださいねという風に こういう注を付けることによって対応したということなんですね 例えばそうですね ここなんかは、この2つの神の名は音読みで読むんですよと書いていますね この上に2つの神様の名前が挙がっているんですけれども
18:51 この2つの神様の名前は音読みしましょうね これは今日の主人公になるイザナキの神なんですけれども それとイザナミの神様の名前ですね これはイザナミという風に音読みしていきますよ ということが注で付け加えられているんですね そういう風に訓と読み(音)ですね 訓読みと音読みをフレキシブルに使うことによって 稗田阿礼が暗唱したそのままの形で書き記すということに成功したんですね これはすごい発明だと思います このことによって、私達が語ることにして、よって 記憶することにして、よってしか伝えてくることができなかったことが
19:40 記録として残すということができるようになった訳ですね 残すことができるようになったからこそ 現代の私達が『古事記』を読むことができている訳ですね この発明がなかったら、『古事記』の物語を 今、私達は読むことができていない訳だから そう思うとこの稗田阿礼と太安万侶というのは 本当にすごいチームだったなという風に すごいプロジェクトを成し遂げたなというのをですね なんかすごくドラマチックですね、という風に思います さあもう1つちょっと押さえておきましょう 『古事記』という文学作品ともう一つ皆さん 日本書紀という作品を聞いたことがあると思うんですけれども 同じような時期に成立した作品ですけれども
20:26 ちょっと性格が違うんですね その性格の違いは何かというと やはりこれはどういう風に表記されているかという違いが その性格の違いに表れているんですね 『古事記』は今申しましたように変体漢文 純粋な漢文ではなくて、ちょっとアレンジした 日本独自のアレンジを加えた漢文で書かれています 太安万侶の序文だけは、純粋な漢文で書かれていますけれども 変体漢文を使ってその後の物語は書かれているんですね それに対して日本書紀はこれはもう純粋な漢文で書かれています ここが大きな違いです ということはどういうことかというと
21:11 純粋な漢文ということは言ってみれば 中国の人も読めるということですよね ということは、これは外国を意識している 外国の目も意識して作ったのが日本書紀だと 外国の人に自分達の国家というものが ちゃんとできているんだよということを アピールする意図というものがあった という風に見ることができると思います そういう風に考えると、この日本書紀というのは歴史書として 外国、この時代でいうと中国は唐という時代になりますけれども
21:58 それを意識していると 一つの国家としてですね きちんと成立しているんだよということをアピールするためには その国家がどういう歴史を持っているのかという 歴史書というものが必要だったんですね 国が成立 正しい歴史書を正史といいますね 歴史書というのか正式な歴史書ということですね それが必要であると、それを作ることによって 諸外国にも自分達の国が自立したしっかりした国家であるよと 外国にも通用する国家ができているんですよということを アピールすることができた訳です
22:44 そういう意図を持って作られたのが日本書紀 それに対して『古事記』は日本人が語ってきた その語りというのは「意」を語ってきた訳ですね 日本人の思いというものをそのまま書き残したのが『古事記』になる だから、そこには物を語ってきた、物語ですよね 物語というその文学というものがあるということです 『古事記』の方は文学性が豊かであるよということなんですね さあこの2つの違いを押さえておきたい そしてこれから、この授業では 色々な文学作品、古典の作品を読んでいきますけれども 今私達は書きコトバと語るコトバというのは
23:31 無意識のうちに使い分けることができていますね 喋っている言葉と例えばレポートを書く時の言葉というのは 文体というのは違いますよね その表現というものを無意識に使い分けることができているけれども それができるようになるというのは非常にもう 今の時代に近い時代のことで 近代以降のことであって まだまだ古典の時代にはそれができていなかったんですね それを漢字というものを使って、どういう風に自分達が語ってきた 思いというものを書き記していけばいいのかという そういう漢字との格闘の歴史というのが 私達の国の古典の歴史でもあるんですね ですから、そういう点でもこれからの授業を見ていっていただけたら
24:19 面白いんじゃないかなという風に思います ポイントとしては 日本語というのは語りコトバだったということですね それをどうやって漢字という文字を使って表すか これがずっと日本の古文のテーマだったんですね どういう風に表現・表記していったらいいのかなという 漢字との格闘の歴史 それが文学の歴史でもあるんですね そういう点も押さえながら見ていただくと、その古典の流れというものが
25:06 よりドラマチックに感じられるのではないかなという風に思います では、一旦ここで動画を切りますね 続きの動画を続けて見てくださいね