0:00 では、いよいよ王子様の登場です 落窪の君と王子様の少将が結婚をするんですね それまでにはどういうプロセスがあったのかと まずそもそも落ち窪んだところに住んでいる姫君の存在を どうやって少将は知ったのかということですよね その時に大きな役割を果たしたのが あのあこぎと帯刀の二人の夫婦なんですね まず、物語の中では1番から7番までの ステップをたどって結婚していきます これは平安時代の結婚の仕方になりますので 古文の常識として押さえておいてくださいね
0:46 まず最初は噂なんですね、この場合 まず落窪の君の所にあこぎが仕えていますよね あこぎと帯刀はできていますから、あこぎがですね 帯刀に「私のとこにこんなかわいそうなお姫様がいてね」 という話をする訳ですね そしたら、帯刀がそれを少将に、王子様にですね 「こんなお姫様がいるそうですよ」という話をする訳です それを聞いた少将が、そんな人がいてるのと ちょっと興味を持つ訳ですね そういう風にして、噂で存在は知ったと 存在を知ったら、次にどういう風にアプローチするのかというと 手紙を送ります
1:34 平安時代の場合には、和歌に乗せて アプローチする訳ですね ところが、この『落窪物語』の中では 落窪のお姫様は、どんなに少将が和歌を送ってもお返事をしません それどころでもないというのもあるし、男の人と通うとかになったら 継母にますますいじめられちゃうんじゃないかしらとか思ってですね お返事を出せずに、という訳ですね そうすると一向に反応がないので 少将は見てやろうと、垣間見ってのぞき見る訳ですね どんな人なのかなという風に、のぞき見をします のぞき見をして、そしてああ素敵な人だな
2:23 ということを知ってですね そして忍んで行くという、会うということをするんですね 平安時代の場合は噂とか 『落窪物語』の場合では、和歌を送って リアクションがないからのぞき見をしにいったという 順番ですけれども、この垣間見というのが 和歌の前にある場合もありますね ここら辺は 必ずしも100%この順ではないということです こんな場合もあります ともかくですね、それで気に入って会う これは中納言一家、北の方達がですね 継母達ですね、娘さん達が一家が 石山寺にお参りに行って
3:08 皆出かけるという日があったんですね、ラッキーなことに その時に、その隙を狙って こっそり忍び込んだ訳です 落窪の姫君からしたら いきなり来られたらびっくりする訳ですけれどもね それで会います 会うというのは 前にもやりましたように、直接顔を合わせるというのも これは契るということに平安時代はなっている 男女の場合はなっている訳ですね その後がとても大事で ここからも押さえていってくださいね 会った後ですね、契った後、朝がきますよね 朝、まず男がしないといけないのは、「後朝の文」というものを
3:54 女のもとに送らなくてはいけません これは和歌ですね、歌にのせてですね あなたと会って家帰ってきたけれども もうあなたのことが恋しいよ、みたいなことを 歌にのせて、送ってあげる訳ですね その「後朝の手紙」というのは マナーとして早い方がいいと 早く、帰ってすぐとか 帰る途中の牛車の中で書くとかですね そういう風にして誠意を見せる訳です そうすると、帰ったと思ったらもう和歌が来たわ、となると 女の方としては嬉しいですよね
4:41 それぐらい私のことを想ってくださっているのね ということになる訳です ということで、早ければ早いほどいいというのが 「後朝の文」になります 逆に、これは男が私のことを どれくらい想ってくれているのかしらというのを測る 一つのバロメーターになる訳で 待っても待ってもお昼過ぎても来ないわ、ということになると なんだかあんまり私のこと会ったけど、よろしくなかったのね みたいなそういうことにもなるんですね だから男の方もですね 会って「ああいい人だったな」と思ったらすぐ 手紙を返しますし 会ってびっくりするぐらいイマイチという場合は 手紙を遅く遅くに出したりですね
5:28 あるいは、誰かに代作・代筆させて出したりとか そういうことになる訳です 今はもう和歌じゃないけれども、メールとかね そういうものの返信とかありますよね デートしてすぐまた来たわ、みたいなね そういうのはやっぱり嬉しいですよね 今と一緒の感覚という風に思ってもらったらいいと思います その後ですね、三日間通うと 三日間通うというのはどういうことかというと 三日目に「三日夜の餅の儀式」という お二人でべったりで お餅を食べるという儀式があるんですけれども その「三日夜の餅の儀式」というのをすると これは正式な結婚になるんですね
6:17 三日間通うということは もうこの女と結婚したいと 思っているということになる訳です 結婚まで考えてへんということになると 三日続けて通わなくていいんですよ という、いろいろなルールというかお作法があるので そういう男女の契り方というのを 平安時代はしていたんですね 少将はですね、この落窪の君と結婚しようと思って 三日間通おうとするんですけれども この三日目がなんと豪雨と、もうザーザー降りなんですね ええーっという風に思う訳ですけれども それでも誠意を見せないといけません
7:04 ここで止めてしまったら、落窪の君がとてもかわいそう がっかりするだろうということで 少将と帯刀は姫君を訪れることにします その時の身なり、白装束に身を包んだ少将は もう豪雨ですからね、立派な直衣とか着ていけない訳ですね 濡れちゃうから、だからとても軽装で 大きな1本の傘を帯刀と二人でさしと、ちょっとイメージしてね 真っ暗闇のなか、よろめきながら歩いて行くと そうすると不運なことに、小路を横切る時に 貴人の行列とぶつかってしまった そうすると、その行列の役人達が「ちょっと止まれ
7:50 こんな雨の夜中にたった二人とは怪しい、捕えよ」 ということで、えらいこっちゃになってしまうんですね 捕らえてみると「この二人は足が真っ白だ」と じゃんじゃん降りでしたから、裾が濡れてはいけないということで ちょっと足のところをね、まくりあげていたんですね そこからのぞき見えている足が真っ白な足で これは盗人の足ではないなと こんなヤワな足はしとらんということで 何者だということになる訳ですね 「どうして立っている、土下座しろ」と言われてしまう訳ですね そう言いながら、大傘をバンバンという風に打つので 「二人は、仕方なく屎のいと多かる上にかがまり居ぬ」
8:37 ということで、「屎のいと多かる上」ですね、わかりますね その上に尻餅をついてしまったんですね あらぁということになる訳です そうすると、もうえらいこっちゃですわね 少将「あはれ、これより帰りなむ」と ああ、もう帰ろうかという風になる訳ですね 「屎つきにたり」と、屎がついてしまったよと 「いと臭くて行きたらば、なかなかうとまれなむ」と 臭いですよね とても臭くて姫君のところに行ったら「なかなかうとまれなむ」 「なかなか」というのはかえってですね かえって嫌がられるだろうと あなたはどうですか 男の人が糞まみれでやってきたら
9:24 どういう反応をしますか あるいは男の方は そういうことになってしまったら それでも行きますか、どうでしょう そういう風に言った少将に対して、帯刀が 「こんな雨の中、こんなに苦労していらっしゃったら 御志を思さむ人は、麝香の香にも 嗅ぎなしたてまつりたまひてむ」ですね 「御志」お気持ちですね、ですから少将のお気持ちを ちゃんとわかってくれる人は これは落窪のことですよね
10:15 あなたのお気持ち、少将の誠意というものを ちゃんと姫君はわかってくれるでしょうと その姫君はきっとこの臭い匂いでもですね あなたのお気持ちを感じて 麝香の香に嗅ぎなしてくれるでしょうと 「麝香」というのは高級なお香です ですから高級な香水のように 例えばあの香水の歌が流行りましたよね あれみたいに、ドルチェアンドなんちゃらみたいに そういう風な香りに思ってくださるでしょう という風に言った訳です 「麝香」というのは、今で言うと
11:04 ムスクという香りに当たるそうなんですけれども ちょっと官能的な香りというのかな そういう香りに 思ってくれるでしょうと どうですか、私は絶対思えないと思ってしまったんですけれども だからいかんのかな 恋愛していて 恋も盲目になればそういう風に思えるのかしら わかりませんが、そうして なんとか姫君のもとにようようたどり着いて もちろん服を着替えてですね そして結婚が成立したのですと 三日間通うというね、このミッションを 無事クリアすることができて 二人は晴れて三日夜の餅という 落窪の君のところにはもう大した食料もありませんから
11:50 ここはあこぎがね、頑張って 親戚とかいろんなつてを頼ってですね お餅を調達してきて、二人で餅を食べてね そして無事結婚が成立したということになりました これでやっと落窪の君が救われるんですね その落窪の君のところに 王子様、少将が通ってきている時に こんなことがあるんですね 継母のいじめに少将が気づくというシーンが描かれているんですね お裁縫の様子を見に来た北の方が 「できてる~?」と見に来る訳ですね 「落窪の君」 「落窪」という風に呼んだのを少将は聞いてしまうと 一緒にいた時に聞いてしまっちゃったんですね
12:36 少将、「落窪の君」とは聞かざりければ、と 落窪とかいう所だけ聞いたんでしょうかね とは聞かなかったので 「何の名ぞ、落窪」と落窪って何の名前 という風に姫君に尋ねたんですね そうすると、自分のことなんだけれども とっても恥ずかしい訳ですね 女いみじく恥づかしくて、「いさ」といらふ 「女」これは落窪の君のことですよ 自分の名前が呼ばれているけれども そんなん言えませんよね、恥ずかしくて 「さぁ」ととぼけた訳ですよね 「さぁ」という風に答えた 「人の名にいかにつけたるぞ、論なう屈したる人の名ならむ」と
13:25 人の名前にどうしてそんな 名前をつけているのかなということですね 「論なう」と、もちろんということですね 「屈したる」と、屈すというのは 熟語でいうと卑屈という言葉がありますよね もちろんそんな名前がついているということは 卑屈な人の名前なんだろうという訳ですね そんな変わった名前をつけられるなんて 性格ちょっとよくないんだろうなという風に言う訳ですね 「きらきらしからぬ人の名なり」と、キラキラしていない名前だね きらびやかじゃない名前だねという風に 言っていますね
14:13 今のキラキラネームって言いますよね 小さい子でお名前キラキラネーム付いている子が 多いですけどもそのキラキラネームの言い方が この『落窪物語』の平安時代からあるということに 改めて私はびっくりしましたけれども キラキラしていない名前だねという風に言う訳ですね 「北の方さいなみだちにたり、さがなくぞおはすべき」 と言ひ臥したまひけりと 北の方が「さいなむ」というのは、いじめるとか そういう意味ですね 北の方がいじめているようだねと、その人の名前 そんな名前がついているなんて「さがなし」 「さが」の「性」とはこれですね 良い本性とか良い性格とかというのが性です
15:01 それがないということだから、性格が良くないと ようだねと言って、お休みになられました まさか自分の名前が呼ばれているなんて それを聞かれてしまうなんてというのは とっても恥ずかしかったと思います だから、「さぁ」という風に知らんふりをした訳だけれども バレてしまうんですね、さらに追い打ちをかけるように 裁縫の様子を見に行ったのに 落窪は全然答えないのよという風に 父親の中納言に北の方が告げ口する訳ですね それで中納言自身がまた見に来る訳です そして、落窪の君をまた呼ぶ訳ですね それで、「落窪」が自分の名前であることが
15:48 少将にとうとう知られてしまいました 恥ずかしくて、もう死んじゃいたいわと涙を流す 落窪の君を少将は慰めながら、何とかして 見返してやりたいと心の中で誓います これが物語の第2部の 少将の反撃に繋がっていくんですね 一方、北の方は「落窪の君が帯刀とデキている」 とあらぬ噂を告げると、どうも勘付くんですね、これで 落窪の君のところにどうも 男がいるらしい、ということに勘付いて その男が少将の君とはまだ知らないので 帯刀という身分の低い 少将の従者ですからね
16:34 身分の低い奴と落窪がデキてるわよ というデマですよね デマを父親に告げてですね そうすると、父親も怒る訳ですね それで落窪の君を更に ひどい物置に幽閉すると 閉じ込めて出させないようにしてしまうと 典薬助という年取った爺さんなんですけれども そのお爺さんを通わせようと策略するということですから 継母はさらにいじめに磨きがかかると言いますか ひどいことを企てるんですね 継母は策略を立てます 落窪の君とあこぎにしたらもう大ピンチなんですけれどもね
17:24 北の方は鍵を典薬に渡しと 物置の鍵を渡すだけです 「人の寝静まりたらむ時に入りたまへ」とひどいよね 皆が寝静まっている時に こっそり襲えって言っている訳ですよ と言って、お休みになったと 典薬は戸を開けようとするが あこぎの細工で戸は開かないと あこぎと典薬は実は知り合いだったんですね 典薬がそういう風に鍵をもらってうれしいから あこぎにポロっと言っちゃうんですよ こんな姫君がいるらしくて、鍵貰って通うんや という風に言う訳ですね あこぎは「えぇ!」と そんなことされたらたまらんわということで 扉に細工をして開かないようにするんですね
18:12 戸は開かない訳です 開かないけど、なんで開けへんのやと典薬助が 今や、今やと、開くかな開くかなという風に ガチャガチャ、ガチャガチャする訳ですね 「と夜がふくるまで板の上にゐて、冬の夜なれば」と 板敷の上に典薬助がいた訳ですけれども 季節が冬だったんですね、寒い訳です そうすると、「身もすくむ心地す」と 寒気でゾゾゾとするような気がすると 「そのころ腹そこなひたるうへに、衣いと薄し」と お腹の調子があんまりよろしくなかったんですね 典薬助は その上、とても薄い着物をよりによって着ていたと
19:02 「板の冷えのぼりて」 何となくわかりますね、冷え冷えとした 板敷ですからね、余計冷えてくると そうすると、「腹こぼこぼと鳴れば」と書いてありますね 今やったらゴロゴロでしょうか お腹がだんだん下ってくる訳です 腹がこぼこぼと鳴ったと 擬音語も面白いね 今やったらゴロゴロでしょうかね ゴロゴロと鳴ったので、典薬助ですね 「翁」と書いていますけれども、お爺さんなんですね 典薬助が「あなさがな」と言うんですね 「あな」というのは簡単でしたね 「さがな」というのはよくない状態でしたね ここは性格がよくないでしたけれども これは今よくない状態
19:47 お腹が下りそうということだから 困ったなぁということですね ああ困ったと「冷えにこそ過ぎにけれ」冷えすぎたなぁ という風に言っている訳ですね 冷えてしまったよと言うに 「しひてごぼめきて」こぼこぼがちょっと レベルアップしているんですね 「しいて」というのは強くですね しいてって今でも言いますね、強く さらに強くごぼごぼという風にゆうてきて、その上 「ひちひち」と聞こえてきたと ピチピチって感じでしょうか これは「いかなるにかあらむ」と疑はしと 一体これはどうなったのかしらという風に思うと かい探りて、「出でやする」とて、と まさぐる訳ですね 何をさぐっているのかなと思うと、その後
20:33 「尻をかかへて」だから お尻の方を触ってみている訳ですね お尻を手でさぐってみて お尻を手でさぐってみて「出でやする」と 出ちゃったのかなと えらい下品ですね と言って、「尻をかかへて惑い出づる心地に」と お尻を抱えながら、もう出そうか出ててしまっているのか わかりませんけれども 慌てて出ていくということですね 心がもう動揺している訳ですね そういう時でも「錠をついさして、鍵をば取りて往ぬ」 ということですね 鍵をしっかりさして、錠をしてですね ちゃんと扉閉めてということですね
21:24 閉めてとしましょうか 鍵を取って出てしまった 鍵でもね、そこにぼっと落としておいてくれたら また逃げることもできたと思うんですけれども それもできない訳ですね ちゃんと鍵は持って行ってしまったということになる訳ですね さっきの少将の三日目の大雨の尻餅の話もそうですけれども 『落窪物語』はこういうちょっとお下品なシーンも あるんですけれども、そういうところがなんか ちょっと昔のあっけらかんとした笑いというのかな またこの後、源氏物語とか伊勢物語とかいう 雅な恋を読んでいきますけれども そういう雅な恋にはない
22:09 面白さというのがあるんですね 典薬助は典薬助で、何かこう おっちゃんの姿が目に浮かぶようでしょう? とても生き生きと描写しているんですね そういうところがこの『落窪物語』の 一つの文章の上手さであるし、特徴だと思います その後、典薬助はどうなったかというとですね 帰って行った訳ですよね ようやく無事セーフということになって また中納言一家がですね 継母達がお出かけをしてくれるんですね その時にもう強行突破で 少将が扉を壊すような勢いで、落窪の君を助け出すと
22:54 自分のおうちに、お屋敷に引き取るということで連れ出すんですね いい王子様を持ったもんですね ということで、落窪な君は救われたと ハッピーということになる訳です さあ、その後ですね ハッピーエンドなんですけれども、一応ね なんですけれども、もう一歩ね 踏み込んでこの『落窪物語』というものの 性格とか描き方というものを考えてみたいと思います 西洋のシンデレラと日本版シンデレラの違いということをね もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います それは続きの動画で、ということで 一旦ここで切りますね