0:00 はい、では、続きを読んでいきましょうね 先ほどは恋しているときの歌でしたけれども 今度は恋が叶った後の歌を見てみましょう 「後朝の歌」ですね、「後朝」というのは 前に『落窪物語』の時にやりましたね 男と女が一夜を過ごした朝ですね、朝に送る和歌の事を 「後朝の和歌」という風に言いましたね それは会って帰って、もうすぐ、すぐもう送るのがいいと もう男の人はですね、女の家から帰り、帰っている その途中のこの牛車の中で書いて送るぐらいの そのスピード感が大事というね、それだけ早く届くと それだけ私のことを想ってくれているのね
0:46 という風に女は喜ぶというね そういうのが「後朝の和歌」だということをやりましたね その「後朝の和歌」として詠まれている二首を また読み比べてみましょう これはね、43番が權中納言敦忠という人で、男の「後朝の和歌」ですね そして80番のは、待賢門院堀河は、女の方なんですね だから、女の立場と男の立場という そこでまた読み比べもしてみたいと思います では、まず敦忠さんの和歌の方から 「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり」 堀河さんの歌の方が 「長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れてけさは 物をこそ思へ」
1:37 さあ、どういう風にその「後朝」の思いというものを それぞれ読んで表現しているのかというところを見てみましょうね 「逢ひ見ての」逢って見るというのはこれは 見るというのは 男女間の関係を持ってのということはやりましたね あなたと逢った、一夜を過ごした、ということですね 逢ひ見てからの、後の心ということですね 「のちの心」に比べれば、ということですね あなたに逢って、その後の私の気持ちに比べるとということですね 逢う前後で比べている訳ですね
2:25 逢った後の私の気持ちと、逢う前の私の気持ちというのを比べていると では、逢った後の私の心に比べると、逢う前はどうだったかと 逢う前、昔ですよね 逢う前、関係前というものは「物を思はざりけり」と 「物思ってなかったなあ」という風に言っている訳ですね これは、昔というのは、逢う前だよね 逢う前というのは、恋のステップとしてはどんな状態でしたか? 例えば、和歌のやり取りをしているとか まだそこまで行ってないかもしれない 噂だけで聞いているという状態かもしれないですし
3:13 そういう段階ですよ 実際にその人との触れ合いというものがない状態ですよね 和歌のやり取りとか、噂とかを知っていると それで、そういう状態でなくて 本当に生身の人間として知ったということですよね そうすると、その前も勿論、その人のことが好きだったんだけれども その時の好きの気持ちに比べたら、逢ってからの好きの方が すごく深いよと、そういうことですよね 「のちの心にくらぶれば昔は物を思はざりけり」と 昔の恋なんて、今に比べたらまあまあ軽いもんだったなあと
4:02 今のこの思いの深さよという風に詠んでいる訳ですね これは、こういう和歌をもらったら嬉しいかもしれませんね 逢ってですね、なかなか分からない愛とかね 逢ってがっかりパターンというのもある訳じゃないですか そういうのに比べたら こういう、逢ってから益々君のことが好きになったよ的なね 歌をもらえたら嬉しいかなという風に思いますよね この敦忠という人はですね 『伊勢物語』の時にモデルになった在原業平でしたね
4:50 在原業平の血筋の人物で非常に管弦、音楽ですね 楽器が上手で美男でモテたという人です 昔も今も変わらないね、楽器をやるというのは何か モテポイントになるのかもしれませんけれども 管弦が上手で非常に美男でモテたイケメンだったそうです そういう人からこういう和歌をもらえたら嬉しいかもしれませんよね これは、恋人に逢ったと「後朝」だから翌朝だね
5:42 その切ない思いですね もうすぐまた会いたいなあということやね あなたへの思いがもう益々深くなってと 一旦帰っているけれども、もうすぐにでもまた飛んでいきたいなという そういうような思いの深さというものを詠んだのが この敦忠さんの和歌になる訳ですね さあ、今度女の方ですね、待賢門院堀河の方ですね 一夜を過ごした後にどんな歌を、女の方は詠んでいるのかというと この2人が逢った訳ではないですよ この2人が逢った訳ではないんです、別々ですけれどもね 堀河の方の和歌を読んでみましょう 「長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れてけさは 物をこそ思へ」 黒髪、黒い髪の毛をちょっとイメージしながら読んでくださいね
6:32 「長からむ心も知らず」とここがちょっとね、難しいところ 長い心も私は知らないわという風に言っている訳ですね この心は誰の心?長い心というこれは誰の心を言っているの? 私が長くあなたを思い続けるという、女の私の心を詠んでいるのか それとも相手の気持ちを詠んでいるのか どっちやと思いますか? 手がかりはね この心、長い心のところに「む」というのが付いていますよね これは推量の助動詞なんですね だから長いだろうかということだね、心長いだろうかと
7:20 自分の心のことだったら分かっているね あの人好き、という心は分かっていると思うから 推量をしているということは ああかしらこうかしらという風に、ああかしらこうかしら 続くだろうかどうだろうかという風に推量をしているということは これは相手の心ということですね、あなたのお気持ちということだよね あなたの気持ちが長いかどうかということですね 男の方のことを言っている訳で、推量して言っている訳ですね そういうことを私は分からないと 一夜を過ごしてですね、私のことをあなたがずっとまた この先もずっと思ってくれるかどうかということは
8:07 私には、今の私には分からないわ、でも願望もある訳ですね 長く続いてほしいわという願望もありつつ 分からない訳ですよね、それはね 分からないからですね 「黒髪の乱れてけさは物をこそ思へ」と言っている訳ですね 「長からむ心も知らず」私は分からないわ 一旦ここで切れますよね あなたの心が長く続くか私は知らない それでその後、黒髪が乱れると、何で髪の毛が乱れんの? 普通に過ごしとったら別に乱れませんよね 乱れるということは、これは、男の人と逢ったからですよね 男の人と逢って、乱れるぐらいに逢っている訳ですよ
8:52 だからもう本当に一心不乱に 熱い一夜を過ごしたということになる訳ですよね だから、これで「後朝」ということになる訳ですよね 黒髪が乱れた朝、今朝、と言っていますよね 男と会った朝ということだから「後朝」の朝だということが こういう表現をしている訳ですね 「逢ひ見てののち」というような 言ってみれば直接的な表現を使っている言い方もあるし 黒髪が乱れた今日というような ちょっと婉曲的な言い方ですよね
9:38 そういう表現の仕方もあるんだなということですよね 乱れるぐらいだから、一心不乱に逢ったと 非常に熱くですね、お互いに過ごしたんだけれども もう朝になると、私のことをずっと思ってくれるかしらどうかしらと 心がまた揺れている訳ですよね、そういう女の気持ちというものを 黒髪になぞらえて詠んでいく訳ですね 「黒髪の乱れてけさは物をこそ思へ」と さあ、ここに出てきましたね、「こそ」と強めているよね
10:24 私と、今日物思いしているのよと 今朝、もう今朝、物思いしているのよと 普通に、ぼーっと過ごしているんじゃないわよと もうこの朝からですね、もう物思いが始まっているのと あなたのことを思っているのよという風に、強めている訳ですね そういう風に詠んでいる女の気持ちですね この揺れ動くですね、物思いで不安な気持ちというものを詠んでいると それで、その時にやっぱりこの黒髪というこれが こう黒髪が乱れて、と言われると 皆の頭の中にその女の人のこの、長い美しい髪が乱れている こう波打ってですね 乱れている様子というのが、頭の中にイメージとして浮かぶよね
11:11 そこが非常に上手いところだと思います ここね、テクニックとしては黒髪というものですね これは乱れるものですね それで黒髪というものは長いものでもあるよね だから、これは全部、髪の毛の関係語なんですね 関係ある言葉という、これは縁語とやりましたよね 関連語を散りばめてイメージを膨らませるという ここで縁語という、テクニックを一つ使っている訳ですね 髪がこう長い髪がこう乱れているという そういうイメージというものを頭の中に映像として浮かばせると
11:57 それで私の恋の心の乱れ、というものを表現しようとしている訳ですね それで、黒髪の乱れというイメージ部分と 私の心の乱れという、私の物思いという これを、イメージと自分のことを結びつけるのが掛詞だったよね 同じ音で意味が違うよという言葉を使って 違うイメージを自分の言いたいことにくっつけると これは掛詞の役割だったよね ここは髪の毛が乱れるよというのと、心が乱れるよという この乱れるというのが、ちょうど接着語になっている訳ですね ちょっと色を変えましょう、書き直しますね
12:52 これが縁語の乱れであって、そしてここが掛詞になっていると 髪が乱れるという「乱れ」がありますね それと、心が乱れると、乱れる物思いだよね という風に2つの「乱れ」というものを ここで掛け合わせると、掛詞ですね することによって、そのイメージ部分と私の心の乱れというのを ガチッとね結び付けて 黒髪がこう波打つように私の心も乱れているのよと 何でかといったら、あなたの気持ちが長く続くか分からないと あんなに熱い夜を過ごしたのに、もう不安になっているの私という それぐらいあなたのことが好きなのよという、そういう堀河の歌ですね
13:41 この黒髪のこの昔の平安美人の この艶やかな黒髪がこう、うねって乱れてと 非常にこう何とも言えない生々しさがありますね そういう生々しい恋のイメージですね 物思いというもののイメージを非常に 上手く表現出来ているのではないでしょうか、という風に思います 私だったら、これはやっぱり堀河の方に勝ちの手を挙げたくなるかな やっぱりちょっと敦忠の歌の方は、何かちょっと何て言うの? 頭で考えている感じがしますよね 何かこの比較を使うという、こっちとこっちを比べてというのが なんとなく理知的といいますかね 頭で考えて作っている歌という感じがして
14:31 なんかこっちの方がちょっと情的なね 心情に訴えかけるような感じがするかな 私だったら堀河かなという風に思いますが 皆さんはいかがでしょうか これが「後朝の歌」になります 一旦またここでちょっと切りまして、後ね 最後、激しい恋の方を読んでいきましょう